KCCSマネジメントコンサルティング(KCMC)は、京セラの創業者で、現名誉会長の稲盛和夫が実践した経営手法「アメーバ経営」の導入コンサルティングを中核に、理念の浸透、社員教育、人事コンサルティングなどを通し、高収益体質への改善を支援している。

小さな組織で見えてくる役割と責任を明確化

KCCSマネジメントコンサルティング 代表取締役会長 日本航空 特別顧問 森田 直行 氏
KCCSマネジメントコンサルティング
代表取締役会長
日本航空
特別顧問
森田 直行 氏

 アメーバ経営について、名誉会長はこう定義する「。会社経営とは、一部の経営トップのみが行うのではなく、全社員が関わりを持つものだという考えに基づき、会社の組織をできるだけ細かく分割し、それぞれの組織の仕事の成果を分かりやすく示すことで、全社員の経営参加を促す経営管理システムである」。

 アメーバ経営の要点を集約すると3つになる。第1は、できるだけ小さな組織に分け、それぞれの役割と責任を明確化する。小さな組織にすれば細かいことも見えるようになり、社員のモチベーションも上がる。第2は、収支決算は京セラ独自の時間当たり付加価値を採用し、収支を明確にする。第3は、タイムリーな経営情報にある。アメーバのリーダーの経営判断に必要な情報を本社管理部門が提供することで、リーダーが自分の組織の方向性を考えられる。

 アメーバ経営の最大の特徴は、時間当たり採算表を使って製造部門や営業部門の収支を管理し、全員参加の経営を実現することにある。採算管理表と財務会計の損益計算書は連動し、最小のアメーバ(係)の採算表をまとめたものが課の採算表になり、それを合わせると部の採算表になる。部の採算表を合算して本部の採算表ができ、それをまとめれば全社の収支が分かる。採算によって貢献度を測り、目標意識を持たせることも可能だ。トップダウンとボトムアップが調和した経営を進め、リーダーを育成することにもつながる。

進捗管理会議で意識が変化、職制別縦割りもアメーバに

 アメーバ経営は日本航空(JAL)の再生でも大いに役立った。JALは2010年1月に会社更生法適用を申請後、経営を立て直すため名誉会長が2010年2月にJAL会長に就任し、私はその補佐役として副社長執行役員として経営再建に参加した。

 名誉会長は「大型航空機の削減や赤字路線の見直し、リストラの徹底など会社更生計画を着実に実行すれば、JALの再建は成功する」と確信していた。アメーバ経営をJALに持ち込み、更生計画を確実に進めることが私に与えられた役割だった。

 再建1年目に最も重視したのは更生計画の案件別の進捗管理会議。名誉会長も朝から晩まで1日中続く会議のすべてに出席した。最大の目的は役員や幹部社員の数字意識を高めること。初めのうち「路線廃止には地元の説得が必要なので時間がかかりそうです」と報告する役員や幹部が多く、危機感が薄かった。しかし、会議を定期的に開き、質疑応答を繰り返すうちに、少しずつ役員や幹部の意識が変わった。

 進捗管理会議とともに、アメーバ経営に基づく部門別採算制度を導入するための準備にも力を入れた。路線統括本部を新設し、それまで職制別に縦割りだったパイロット、キャビンアテンダント、空港カウンター、整備などの部門の人員もアメーバに分けて採算を計算しやすくする一方で、組織を細分化して責任と役割を明確にした。

 原価管理の徹底を図るため1便ごとの収支管理を重視した。パイロットやキャビンアテンダントの人件費をはじめ、空港のサービス費、警備費、機材償却費、燃料費などについて社内計算用に「パイロット費用」「キャビンアテンダント費用」などを設定し、路線ごとの1便当たりの収支を素早く細かく算出・把握できる体制を整えた。

 部門別採算制度は2年目の2011年4月から開始した。1便当たりの収支(収入と主要なコスト)を翌日に算出可能となり、毎月、部門別採算制度に基づく業績報告会を開いている。更生計画の徹底によって肥大化した組織と事業を見直し、経営システムが変わったことで、2011年3月期と2012年3月期に2期連続で過去最高の営業利益を上げられた。

 アメーバ経営を導入するのは企業だけではない。当社は病院経営版のアメーバ経営「京セラ式病院原価管理手法」も手掛けている。アメーバ経営と呼ばないのはアメーバという言葉の響きが医療関係者に悪いからだ。20法人が導入し、すべて黒字化している。

独自の院内協力対価を開発、コスト構造を見えやすく

 病院にアメーバ経営を導入する際、最も工夫したのは病院内の様々な協力内容を具体的な金額で計算できるようにしたことだ。病院では患者1人に対し医師のほかに数人のコメディカル(看護師、診療放射線技師、理学療法士など)が関与するが、医師が所属する診療部のみで収益をとらえるところが多く、コスト構造が不明瞭になりがちだ。この問題を解決するため、KCMCは「院内協力対価計算システム」を独自に開発し、コメディカル部門の収入を明確化し、コスト構造を見えやすくした。そのうえで、医師やコメディカルを小集団(アメーバ)に分けて採算管理表を作成し、病院全体の原価管理を実現した。

 アメーバ経営では、それぞれのアメーバのリーダーが中心となって計画を立て、全員の知恵と努力により目標を達成していく。そうすることで、社員一人ひとりが主役となり、自主的に経営に参加する全員参加経営を実現している。JALの再建を通して、企業存続の要諦はリーダーの育成と全員参加の経営にあると改めて感じた。