日本経済に停滞感が漂っているが、IT産業もその例外ではない。それでも、日本が世界に飛躍するチャンスはあると思う。クラウドコンピューティングという大きな潮流によって、パラダイムシフトが起きているからだ。

従来環境でOSSの利用率は20%、パブリッククラウドで80%に上昇

レッドハット 代表取締役社長 廣川 裕司 氏
レッドハット
代表取締役社長
廣川 裕司 氏

 これまでのITとパブリッククラウドを比較してみると、仮想マシン1台当たりの時間コストは100円対10円、1人が管理するサーバー数は20台対300台、アプリケーションの導入にかかる時間は数週間対数時間、アプリケーションの開発にかかる時間は数年対数週間と、まさに桁違いだ。このメリットを享受するため、クラウドへのシフトを強め、クラウドの技術発展が加速している。

 クラウドを構成するコア技術として、仮想化技術やネットワーク技術に加え、OSS(オープンソースソフトウエア)が重要な位置を占める。従来のIT環境でOSSを利用する割合は約20%にとどまっていたが、パブリッククラウドでは80%近くに達しており、特にクラウドはOSSによって支えられている。

 OSSの成長を支えるのは圧倒的な開発力だ。世界最大規模のソフトウエアベンダーの社員はおよそ10万人に上るが、様々なOSSのコミュニティーでは延べ100万人を超える開発者が活躍する。10万件以上のプロジェクトが進んでおり、世界中のエンジニアが力を合わせながら開発スピードを高め、イノベーションを生み出す。

 OSSは企業や政府、官公庁でも広く使われている。OSSの代表格といえるLinuxを見ると、企業ITでのシェアは年々高まり、昨年36.9%に達した。また、OSSの種類や使用範囲も拡大し、Linuxが登場した1991年当時はOS領域だけだったが、ミドルウエアやデータベース領域にも拡大、さらにKVMによって仮想化領域にも対応する。その成長要因はコスト削減、スピード、イノベーションで、クラウド時代の「標準」となっていることだ。

●拡大するOSSのカバー領域
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 半面、OSSにも落とし穴はある。安定性や信頼性、互換性、セキュリティといった課題があり、ミッションクリティカルなシステムにそのまま導入すれば大変な事態が生じるリスクがある。その解消にレッドハットの役割と価値がある。具体的には、OSS開発コミュニティーとコラボレーションを維持しながら、高い信頼性と安定性を図り、ミッションクリティカルのシステムにまで対応する。そのために、レッドハットは世界各地の開発センターで徹底した検証を実施するとともに、パートナーとの協業によってハードウエア、ソフトウエアとの互換性を確保し、サポートの体制も整備している。

 レッドハットはライセンスそのものは無償で提供するが、それにアップグレードやアップデート、保守サービスなどの包括的なサービスをサブスプリクションとして提供する。その点を評価され、レッドハット製品は世界数十万社のユーザーに使われている。

世界で初めてユーザー会を設置、日本特有のニーズにも対応

 開発コミュニティーだけでなく、パートナーとユーザー、そしてレッドハットの四者が一体となって価値を創造することがレッドハットの強みだ。その証拠に、世界で初めて日本のOSSユーザー会を立ち上げた。今では100社近くが参加し、技術的な情報交換だけでなく、製品・ソリューションをビジネス価値につなげるための具体的な方法論などを話し合っている。

 ユーザー会などを通して得たニーズは、レッドハットの開発センターはもちろん、OSSコミュニティーにも即座に共有され、ソフトウエアやサービスの開発が迅速に進む。そうすることで、日本特有のニーズに対応したサービスも生まれた。「アドバンスドミッションクリティカルプログラム」はその1つ。日本では、10年に及ぶ長期間にわたってシステムを使い続ける企業が少なくない。標準の7年間サポートに3年間の延長サポートを加え、ミッションクリティカルなシステムを安定運用したいという顧客ニーズに対応した。

 レッドハットのビジネスは急拡大しており、売上高は昨年、OSSプロバイダーとして世界で初めて10億ドルを突破した。主力のOS事業に加え、その他のレイヤーのOSSを強化するため買収を重ねてきた結果、製品・事業が急拡大し、プラットフォーム(Linux OSなど)からミドルウエア(JBossなど)、仮想化(KVMハイパーバイザなど)、クラウド(IaaS CloudForms、PaaS OpenShiftなど)、ストレージ製品まで網羅する。

 次の目標は今後4~5年のうちに売上高が30億ドルに達することだ。OSSの無限の可能性を追求し、そこに当社の価値を融合することで、日本のITの発展にこれまで以上に貢献したい。