ここ数年、多くの企業がビジネスプロセスの改革を経営戦略上の最重要テーマとして掲げてきた。それが昨今ではビジネスの成長の加速にポイントが移っている。また、力点を置くテクノロジーについても、これまでのクラウドコンピューティングに代わり、多くの企業がアナリティクス、ビジネスインテリジェンスを挙げる。

ビッグデータ利活用の本質は膨大なデータから価値を創出

日立製作所 執行役常務 情報・通信システム社 CSO 渡部 眞也 氏
日立製作所
執行役常務
情報・通信システム社
CSO
渡部 眞也 氏

 アナリティクス、ビジネスインテリジェンスという言葉そのものは、すでに2000年以前からソリューションとして企業に浸透してきた。今まさにそれがビッグデータというキーワードによって大きな質的変化を遂げ、企業の成長を支えるイノベーションの加速、新たな価値創出の源泉ととらえられるようになってきた。

 その背景には、企業システムやインターネットなどから発生するデータが指数関数的に増え続けていることがある。こうした膨大なデータの間に新たな関係性を見い出して価値を創り出していくのがビッグデータ利活用の本質といえる。テクノロジーの進歩によって、大量のデータを収集・分析するためのコストが下がったため、ビッグデータ利活用に向けた歩ナック的な取り組みが企業のビジネスや国の施策などで活発化してきた。

 日立は、ビッグデータの利活用に関して、大きく3つの点で独自の強みを持つ。

 1つは、これまで数多くの企業の基幹システム、社会インフラシステムを構築してきた実績があり、社会インフラにおけるビッグデータの利活用に不可欠な情報システムと制御システムの技術をグループ内に保有していることだ。

 2つ目は、グループ内のモノづくりを通して蓄積してきた豊富なデータ分析に関するノウハウ・人財を持つことだ。一例として、2008年から取り組んだ大量データとITリソースを活用して抽出した知識を付加価値サービスとして提供するKaas(Knowledge as a Service)の研究開発が挙げられる。

高度な技術、ノウハウ、人財でビッグデータ利活用を支援

 3つ目は、ビッグデータの利活用を支える多様なプラットフォーム技術・製品があることだ。とりわけ大量のデータを高速に処理するためのストレージ製品、ソフトウエア技術の分野に強みがある。東京大学と共同開発した超高速データベースエンジンを日立の高性能、高信頼性のハードウエアと組み合わせて提供するHitachi Advanced Data Binderプラットフォームはその一例だ。

 以上のような独自の強みを生かし、日立はビッグデータ利活用に向けたビジョン構築、生み出される価値を明確化するための活用シナリオ策定、実現可能性を確認する実用化検証、具体的なビジネス価値創出に向けたシステム導入という4ステップをモデル化し、「イノベイティブ・アナリティクス」によって体系化するというアプローチを提案している。また、これをマネジメントしていくための「データ・アナリティクス・マイスター」と呼ばれる人財も現在40人ほど確保している。

●ビッグデータ利活用に向けてのステップ
●ビッグデータ利活用に向けてのステップ
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 こうした手法によってビッグデータの利活用を促進する企業はグローバル規模で広がっている。英国の鉄道事業のケースはその好例だ。日立の「Exアプローチ」(エクスペリエンス指向アプローチ=真の課題解決を実現するため超上流行程から行う独自のシステム開発手法)などを使って人間系も含めて保守業務を分析し、分析シナリオをもとにした車両のデータ取得と検証で、現在、予防保守の高度化と保守コストの最適化に取り組んでいる。それにより鉄道事業会社の運行品質向上へ貢献していく。

 今後、ビッグデータの利活用は、ビジネスだけでなく社会にも大きなインパクトを及ぼしていくだろう。一例を挙げれば、日立は現在、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進めている「ハワイにおける日米共同世界最先端の離島型スマートグリッド実証事業」に参画し、化石燃料に依存しないエネルギーインフラ構築に向け、自然エネルギー大量導入時の電力網安定化制御にビッグデータの利活用を検討している。

 そのほか、施設改善や防災・都市計画の分野では人の移動を検知する様々なセンサーデータや地図などの空間データを組み合わせた自空間モデルに基づく人流シミュレーションに、防犯対策の分野では監視カメラで撮影された大量の画像データからの顔検出に使われ、幅広い分野で利活用が進んでいる。

 日立は2012年5月に新事業コンセプト「Human Dreams. Make IT Real.」を定めて、新たなスタートを切った。ビッグデータの利活用も含めて、人々の夢をITで実現していくことを目指した取り組みにさらに邁進していく。