FacebookやTwitter、スマートフォンに代表されるコンシューマーITが急速に進化し、これまで企業価値の源泉だった基幹ITに代表されるエンタープライズITと融合する段階に入ってきた。そのため、コンシューマーITの発想やソフトウエアを取り入れてエンタープライズITを変革し、両者の融合を図っていく必要性が高まっている。すでにその変化は表れている。製品やサービスの需要者としてとらえていた顧客を「物言う顧客」として位置付ける動きはその一例だ。

 コンシューマーITを梃子にした改革に取り組めるかどうかは今後の企業経営を大きく左右する。その際、(1)商品のIT化、(2)顧客経験価値の向上、(3)データ重視のリインテグレーション、(4)レガシー構造改革、(5)エンタープライズIT人材の転換──の5つのポイントが重要になる。

既存商品をITと組み合わせスマート化でサービスと連動

アクセンチュア 代表取締役社長 程 近智 氏
アクセンチュア
代表取締役社長
程 近智 氏

 1つ目の商品のIT化は、既存の商品や事業をラッピングするような形でITと組み合わせ、スマート化を図ってサービスと組み合わせて提供していくことだ。iPodを起点にスマート化したシステムをつくり上げたアップルのケースはその好例といえる。スマート家電に限らず、あらゆる業態で商品をIT化する余地はある。

 2つ目の顧客経験価値の向上は、文脈を理解してサービスを提供するコンテキストベースによるサービスの提供で実現できる。顧客一人ひとりが持つ十人十色の嗜好、行動履歴などに合わせ、最適なサービスを提供する必要がある。限りなくワンツーワンマーケティングに近い。アマゾンのレコメンデーションなどはその最たるものだ。

 商品のIT化と顧客経験価値の向上を実現していくうえで不可欠になるのが3つ目のデータ重視のリインテグレーションである。事業部ごと、部署ごと、顧客ごと、製品ごとに分かれ、企業内に散在するデータを縦横斜めに読み解ける体制を敷くとともに、ソーシャルメディアなど外部にある膨大なデータの中から企業価値の向上に役立つ情報を見つけ出し、社内外のデータを十二分に活用していかなければならない。ありとあらゆるデバイスからセキュアにアクセスできるような環境を整え、解析アプリケーションも社内で共有していくことが大切だ。

 4つ目のレガシー構造改革を挙げたのは、日本企業にとってライバルは欧米企業だけでなく、過去の負の遺産を持たない身軽な新興国企業とも競争しなければならなくなってきたからだ。これまで独自開発してきたホストシステム、カスタマイズを重ねてきたERPといった基幹ITのリストラを覚悟を持って断行すべき時期が到来している。

 今後、基幹ITに膨大な保守費をかけて維持していくよりも、それに要するコストのうち一部を投資に回すほうが理にかなっている。部署内業務用の簡易ツールや周辺・間接業務ツールといったITについては、いっそのこと保有しないといった割切りも必要になるかもしれない。汎用サービスの活用や他社との相乗りなどを積極的に進めるべきだろう。

 レガシー構造改革を進めていくことで、システム部門のあり方は大きく変わらざるを得なくなる。これが5つ目のエンタープライズIT人材の転換である。基幹ITのリストラや外部サービスの積極的な活用によって生じたシステム部門の余剰人材は、グローバル対応やコンシューマーIT対応、事業部門でのIT武装など戦略的仕事に再配置して吸収すべきだ。

大改革BPR 2.0に着手し仮説・検証型組織の構築を

 ここまで挙げた5つのポイントを実践していくために、経営者が果たす役割は大きい。とりわけ経営者に求められるのが仮説・検証型組織に転換することだ。ビッグデータを十二分に活用して企業価値を高めていくには、それぞれの業務現場が分析プロセスを回すことが効果的で、組織改革は避けて通れない。BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)2.0と呼んでもよい大改革に着手すべきだろう。

 また、IT部門の戦略的な位置付けを再考することも経営者にしかできない大きな役割だ。具体的には、IT部門が自社にとってコア(中核)なのか、それともノンコアなのか位置付けを再考し、それによってIT予算や権限の付与などを戦略的に考えていく必要性が生じる。

●今、企業ITに求められていること
●今、企業ITに求められていること
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 エンタープライズITがコンシューマーITと融合し、さらにはコンシューマーITに追い抜かれるという大局観を持ったうえで、ITが自社のコアかノンコアかという選択をはっきりさせながら、10年程度でITの寿命が来るというスピードをしっかりと認識して対応していく。これこそがICT二流国への転落を回避する処方箋にほかならない。