個人向けのクラウドサービスを業務で利用することが、自社のセキュリティポリシーにどうしても合わないケースはあるだろう。そうした場合は、個人向けクラウドと同様の機能を持った法人向けのクラウドサービスを選ぶのが定石といえる。セキュリティや利便性が“ほどほど”の状態で、BYODを推進できる。

 法人向けといえども、使い勝手は個人向けと大きくは変わらない。例えばオンラインストレージであれば、個人向けクラウドのDropboxのように、マウスでファイルをドラッグ・アンド・ドロップするだけで自動的にクラウド上のフォルダと同期したり、他のユーザーと手軽にフォルダを共有したりできる機能を備えている。スマホやタブレット端末からも手軽に利用できるアプリを配布しているサービスもある。

 法人向けクラウドでは、こうした個人向けクラウドの使い勝手や機能の豊富さに加え、ユーザーアカウントを一元的に管理する機能や、操作ログを記録する機能、フォルダのアクセス権をシステム管理者が変更する機能、などが備わっている(図1)。

図1●法人向けクラウドの特徴
個人向けクラウドの機能にユーザー管理やログ管理などの機能を追加している
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 法人向けのクラウドを導入することで、システム部門はユーザーを個人向けクラウドからの移行を促せるようになる。一方的に個人向けクラウドの利用を禁止するよりも、ユーザー部門の理解を得やすい。個人向けクラウドの利用が蔓延するのを防ぐために、法人向けクラウドの導入を決めた実例を紹介しよう。

個人向けクラウドの蔓延を阻止

 日本能率協会グループのシステム子会社であるジェーエムエーシステムズ(JMAS)は、2012年10月から、ITベンチャーの三三が提供する名刺管理の法人向けクラウド「リンクナレッジ」を導入する(図2)。

図2●名刺管理の法人向けクラウド「リンクナレッジ」の仕組み
日本能率協会グループのジェーエムエーシステムズ(JMAS)は、2012年10月から導入する。名刺の画像情報のほか、訪問履歴なども合わせてクラウド上で管理する
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 JMASは数年前から、私物のスマホやPCの業務利用を認めている。今回導入するリンクナレッジについても、私物端末からの利用を認める予定だ。

 BYODの先進企業である同社だが、実は課題もあった。「名刺情報や営業情報を管理するために、Evernoteなどの個人向けクラウドを利用するケースが、草の根で広がっていた」と、坂倉猛常務取締役産業ソリューション事業部長 企画営業部長は打ち明ける。

 JMASの場合、私物のスマホなどを業務に使うことは認めているものの、あくまでも社内システムを利用することが条件だ。個人向けクラウドの利用は認めていなかった。「業務に不可欠な状態になっている部署もあった。一方的に禁止しても、実効性が伴わない。だったら、会社として責任を負える法人向けクラウドを導入しようと考えた」(坂倉常務)。

 利用イメージはこうだ。営業担当者は、オフィス内に設置した専用スキャナーから、取引先などの名刺をクラウド上のデータベースに登録する。名刺画像のほか、訪問履歴をスマホやPCから入力する。それらの情報は、社外にいてもスマホなどから閲覧できる。坂倉常務は、「段階的に日本能率協会グループ全体に広げていきたい」と語る。