国際競争力の強化に向け、グローバル経営を視野に入れなければならなくなった。マイクロソフトは190カ国で事業を展開し、世界で9万5000人の社員が働く。そのため、お客様から「マイクロソフトはどのようにグローバル経営に取り組んでいるのか」とよく尋ねられる。

 経営とITの関係もよく話題に上る。お客様に申し上げているのは、あくまでITはイノベーションを支える道具であるということだ。イノベーションでITを活用するなら、まずはどのようなイノベーションに取り組むのか明確にすべきだろう。そのうえで、その実行に必要なIT、そして人を組み合わせ、企業にとって最適なシナリオを提示する必要がある。

 経営の根幹には人がいるが、ともすれば過去の成功体験に固執して保守的になり、なかなか企業文化は変わらない。人とITを組み合わせ、企業文化のあるべき姿を追求すれば、こうした課題は解決できる。実際、ITを活用して企業のワークスタイルや行動が変わることもある。手前味噌になるが、当社の事例を交えながら紹介したい。

最適・迅速な業務を支援、Lyncのプレゼンス機能

日本マイクロソフト 代表執行役社長 樋口 泰行 氏
日本マイクロソフト
代表執行役社長
樋口 泰行 氏

 当社は2011年2月、東京・品川への本社オフィス移転に伴って、フリーアドレス制を採用するとともに、フロアごとに数多くのミーティング用のスペースを設置した。社員はいつでも自由にスペースに集まれるようになった。意見を交わしやすくなったので、フェース・ツー・フェースのコミュニケーションが活性化し、部署を超えた情報共有、経営のスピードアップ、社内ベクトルの一致といった様々な効果が生まれた。

 このワークスタイルの変革を側面から支援したのがMicrosoft Lyncである。最大の特徴はスケジュール管理と連携し、一緒に仕事をする社員の状況を一覧表示するプレゼンス機能にある。パソコン画面に表示された社員の名前が緑色であれば自席にいる状態、黄色は一時退席の状態、赤色は会議中の状態、灰色は離席してオフラインの状態を表す。相手のプレゼンス(状況)に合わせ、メールやビジネスチャット、エンタープライズボイス(IP電話)、オンライン会議(音声会議、ビデオ会議)などのコミュニケーション手段を選択できる。

 プレゼンス情報は電子メールやCRM(顧客管理)、情報共有ポータル、当社のOfficeといったツールに埋め込めるため、日常業務で利用するアプリケーションから直接アクションを起こせる。一例を挙げれば、CRMで顧客情報の閲覧中、記載内容に不明な点があれば、Lyncを使って顧客情報を作成した担当者を検索し、プレゼンスを確認したうえで、在席していればIP電話などで直接話を聞ける。在席していなければ、その担当者の上司に問い合わせることもできる。

 また、ビデオ会議に参加している社員のパソコン画面上にExcelで作成したデータを共有し、ビジネスチャットを用いて参加者が編集することも可能だ。お客様のオフィスでも社内の担当者から最新の顧客データを受け取って説明できるので、わざわざ会社に戻ってデータを更新し、それをお客様に送信する必要はなくなる。

 Lyncによる効果は計り知れない。リアルな会議やメールの件数も減り、機動力がアップしたほか、IP電話の活用で従来のPBX(電話交換機)が不要になり、組織変更のたびに発生する内線電話工事のコスト削減にもつながっている。

●Microsoft Lyncの主要機能とその効果
●Microsoft Lyncの主要機能とその効果
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全社員一斉の在宅勤務でワークスタイルを検証

 当社は、東日本大震災からほぼ1年が過ぎた2012年3月19日を「テレワークの日」と定め、Lyncを活用して全社員の在宅勤務を実施した。社員はビデオ会議でミーティングを行うなど、日常業務を遂行しながら問題点を洗い出し、BCP(事業継続計画)やワークスタイルを検証している。

 今後、クラウドやビッグデータ、ソーシャルコンピューティング、スマートデバイス、認識技術のナチュラルUI(ユーザーインターフェース)といった様々なI T技術が普及し、ワークスタイルの変革を加速するだろう。電子メールが不可欠なものになったように、そう遠くない将来、プレゼンス機能を活用したワークスタイルが当たり前の時代になるはずだ。

 当社の本社にある「マイクロソフト テクノロジーセンター」では、LyncなどのITソリューションを活用したワークスタイルのデモや体験、システム検証などを通し、導入のお役に立ちたいと考えている。どんな効果が期待できるのか、経営者の皆様にぜひ体験していただきたい。