スイスのビジネススクールIMDが毎年公表している世界競争力ランキングによると、日本は顧客満足では2位と高かったものの、生産移転の脅威では最下位の59位、経営幹部の国際経験でも59位、言語スキルでは58位にとどまっている。経営者の国際経験や言語力の乏しさがグローバル対応の障壁になっているうえ、少子高齢化の進行と産業構造転換の遅れが日本の競争力をそいでいることをはっきり物語る。

 少子高齢化が経済に与える影響は小さくない。2012年には団塊の世代が年金を受け取る65歳になるが、団塊ジュニアは40代になり、消費を下支えしている。しかし、10年後に団塊ジュニアは50歳に達し、消費の伸びは期待できなくなる。65歳以上が人口の30%を超え、30代、40代が激減する。残念ながら団塊ジュニアが消費を支える12年から22年までの10年間は日本が産業構造を自力で転換する最後のチャンスだ。

国内の人口構成に加え国際的な地政学も変化

プライスウォーターハウスクーパース 代表取締役会長 内田 士郎 氏
プライスウォーターハウスクーパース
代表取締役会長
内田 士郎 氏

 国内の人口構成だけではなく、国際的な地政学も大きく変わるだろう。グローバルプレーヤーとして、欧米の多国籍企業だけでなく、中国やロシアなどの国営企業が台頭してきた。米中関係は良好であるかどうか、そのほかの国の重要性は高くなっているのかどうか、といった視点に立つと、次の4つのシナリオが考えられる。

 第1は、グローバル化が一段と進化・発展するという世界経済の成長に最も望ましいシナリオだ。主要20カ国・地域(G20)などの制度的枠組みが正常に機能し、様々な課題に各国が集団で意思決定しながら解決に当たる。

 第2は、米中関係は良好だが、欧州が経済危機を乗り越えられず、日本の衰退も続くシナリオだ。世界の経済環境は一段と厳しくなり、米中の2国がグローバルな課題を解決する構図になる。

 第3は、米中の対立で新たな冷戦構造が生まれるシナリオだ。グローバル経済は分裂し、世界秩序は崩壊する。日本や欧州は停滞から抜け出せない。

 そして、第4は欧州、アジア、米国にブロック経済が広がるシナリオだ。共通の経済的・政治的価値観に基づく統合が世界各地で進む。欧州の地域モデルが最も有力なものになるだろう。

●グローバル競争におけるイノベーションの脅威
●グローバル競争におけるイノベーションの脅威
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日本企業の不得意な領域、クリエーティブが理想に

 少子高齢化と国際的地政学の変化は企業にとってコントロール困難な要因だ。しかし、市場・顧客や商品・サービスの設定、事業を支えるI Tの利用、組織体制といったコントロール可能な要因を活用し、コントロール困難な要因をマネジメントできれば、ビジネスの成長は持続できる。その際、明確なビジョンが大切になる。それがなければ、マネジメントすべきものが分からなくなる。

 日本企業にとって、変わらないことは最大のリスクだ。事業環境に対応して変化しなければならないが、その変化には素早く対応するリアクティブ、変化を予測し、あらかじめ準備するプロアクティブ、自らが率先して変化を生み出し、リードするクリエーティブの3つがある。この中で最も望ましいのがクリエーティブだ。自らが変化を巻き起こすのだから、閉塞感は打破できる。しかし、「言うは易し、行うは難し」、日本の大企業の不得意な領域でもある。

 そのイノベーションは、千三つという言葉があるように、1000のアイデアの中から3つを見つけ出し、ようやく1つが成功するというプロセスを踏む。1つの成功のために1000のアイデアを生み続ける仕組みをつくり、それを動かしていく組織文化が求められる。それができるのはリーダーだけだ。

 イノベーションでは、技術革新によって改善改良を繰り返しても、ある日突然、破壊的イノベーションが起こり、顧客が自社の商品に価値を見い出さなくなることがある。面目で融通が利かない日本企業はこれに陥りやすい。技術革新と新機軸のどちらを目指すのか、市場と競合企業の動向にどこまで目を向けるのかといった点を明確にし、こうした事態を避けなければならない。

 企業が成長を続けるためには、目標を定め、コントロールすることが大切になる。その方向性が間違っていないかどうか絶えず検証し、将来のために行動するのが経営者の仕事だ。グローバル競争の下で転換期を迎えている今日、変わらないことが最大のリスクであることを経営者は認識しなければならない。当社は今後も、ビジネスを支えるI Tを含め、日本企業の競争力を高めるソリューションの提供に力を注いでいく。