日本に根をおろして20年。シスコシステムズはインターネットとともに発展し、クラウドの創出にも重要な役割を果たすことができた。今後普及する新しいワークスタイルにも、シスコの技術、製品、サービスは大きく貢献できると自負している。
最初に興味深いデータを紹介しておきたい。2011年にシスコが日本を含む世界の先進国14カ国で実施した調査Cisco Connected World Technology Reportによれば、調査対象者の3分の1はインターネットが食事・水・空気と同等に重要だと考えており、3分の2はオフィスがなくても生産性は向上できると回答した。共同作業を好むという定説がある日本でも、半数の人はオフィスは必要ないと答えている。
日本人の働き方は急速に変化、ライフスタイル重視に
代表執行役員社長
平井 康文氏
また、給与が10％低下しても自分のライフスタイルに合ったデバイスを求める人は全体の5分の2に達し、70％の人がFacebookで上司や同僚を友達にしているという。自分の予定や利便性に合わせて柔軟な働き方をしたいと望む人も約半数に達し、日本の調査対象者の42％がライフスタイル重視の働き方を選択した。この調査結果から分かるのは、日本人の働き方が急速に変化しつつあるということだ。パソコンを基本にした執務スタイルは終焉を迎えており、仕事とプライベートライフの間を分かつ垣根も消滅しようとしている。
代わって、人間ならではのクリエイティブな業務をダイナミックなチームによって、バーチャル化された仕事場でこなすための新しいワークスタイルが台頭し始めている。ビジネスを成長させるには、このようなワークスタイルにモバイル、ソーシャル、ビジュアル、バーチャルの4つのICTを付加するべきだ。
では、このような新しいワークスタイルの実践で重要なことは何か。当社は長年ワークスタイルの研究と実践に取り組み、2011年度の日本経営品質賞・大規模部門を受賞した。「顧客の経営革新の実現にむけた揺るぎない関係性づくり」「カルチャーの浸透とコラボレーション組織による強い営業体制の構築」「いつでも、どこでも、誰とでもというコンセプトの体現による学習する組織の実現」「緻密で合理的な戦略展開によるスピーディーな組織マネジメント」の4点を評価された。
我々が目指したワークスタイルは、「サッカー型組織モデル」と「ライフワークインテグレーション」の2つの言葉で説明できる。野球は、イニングごとに攻守の交代があり、ベンチから指示を発し、キャッチャーのサインに従ってピッチャーが投球する非同期型スポーツ。これに対して、サッカーでは広いピッチの中を11人のプレーヤーがフォーメーションをダイナミックに変えながらプレーする。攻撃から守備、守備から攻撃への転換も瞬時・ダイナミックで、まさにリアルタイムのスポーツだ。
また、ライフワークインテグレーションという言葉をあえて使用したのは生活（ライフ）と仕事（ワーク）をうまく統合（インテグレート）させるという趣旨による。自らの利便性やライフスタイルに合わせて、従業員がat homeとat workを自由に切り替えられるようにすることがその狙いだ。
ITからBTへの進化によって働き方も事業も変革できる
このような新しいワークスタイルを具現化するには、映像の力、マルチOS/マルチデバイス、セキュアモバイルという3つの要素が必要になる。具体例としては、高解像度のテレプレゼンスによるビデオ会議、ネットワーク情報共有による共同作業、在席を確認するプレゼンス機能、テキストチャット、ファイルサーバーへのリモートアクセス、スマートフォンによるコミュニケーションなどが挙げられる。
シスコは、新しいワークスタイルを支えるアプリケーションとサービスをクラウド経由で提供する仕組みとして、Collaboration as a Serviceを提唱している。音声、ビデオ、インスタントメッセージ、プレゼンス、会議システム、カスタマーケアなどのサービスを含み、その多くはパートナー企業を通じて提供される。
新しいワークスタイルの時代には、これまでのInformation Technology（IT）がBusiness Technology（BT）へと進化していく。BTは、最適化されたIT基盤という従来の役割を超えて、従業員には働き方の変革と生産性の向上を、企業は事業の成長と変革を及ぼすビジネス主体の基盤となる。創立20周年を迎えた今年、「世界で一番ネットワークの力を信じている」をスローガンとして選んだ。文化、プロセス、イノベーションを重視する「知的体育会系組織風土」こそがシスコの目指すところである。
