日本を取り巻く経済状況は厳しさを増し、変化は速くなっている。企業間競争は激化の一途をたどる。この5年間で薄型テレビは6分の1に、デジタルカメラは2分の1に価格が下がった。従来型携帯電話からスマートフォンへの置き換えが急速に進んだ結果、競争ルールも競争相手も大きく変わってしまうパラダイムシフトも起こっている。

 変化の激しい時代を生き抜くには、これまでの経験や直感に頼ることはできない。迅速な対応と変化の先取りによってチャレンジを続け、新たな価値を創り出していかなければならない。そこにこそICTの出番があると考えている。

 バックオフィスの効率化に始まったICT活用は、ビジネスの世界にとどまらず、社会インフラとしての役割を果たすまでになった。今後は、新たな価値を創造するための道具になると期待を集める。

技術の加速度的進歩により人中心のICT利活用が進む

富士通 代表取締役副社長 佐相 秀幸 氏
富士通
代表取締役副社長
佐相 秀幸 氏

 その背景にはICTの急速な発展がある。CPUは半導体技術の向上と新アーキテクチャー採用によって動作スピードが劇的にアップし、メモリーの容量やインターフェースの速度も指数関数的に上昇中だ。スーパーコンピュータの分野で富士通が開発に関与した「京」が世界最高レベルの性能を実証した。

 光ネットワークの発展も目覚ましい。1980年代には100Mbpsにすぎなかったが、今では1000倍の100Gbpsに達した。携帯電話でも、第4世代のLTEは第1世代のアナログ方式の1000倍の伝送容量を実現している。モバイル端末やセンサーの高度化・スマート化も進み、携帯電話やスマートフォンに内蔵されるソフトウエアの量はかつてのバンキングシステム並みになった。

 ビジネスと社会をリードするパワーを備えるようになったICTをビジネス課題の解決に活かしていくために、今年、富士通はReshaping ICT、Reshaping Businessというテーマを掲げた。ICTの利活用方法は、人間による知の創造と行動を支援するヒューマンセントリックなものへと変わってきており、新しい可能性をもたらしつつある。

 その萌芽はすでに見え始めている。医療の領域では、病院という場所の制約を超えて複数の専門医が在宅医療を支える仕組みが可能になった。事務機器メーカーでは、機器から送られてくる稼働データをリアルタイム分析してトラブルの予兆を察知し、損失を未然に防いでいる。

 顧客カードの使用記録から、保有者の嗜好やライフスタイルを把握してマーケティングに活用する試みも、すでに始まった。シミュレーションを活用した分子モデル設計による創薬、有限要素法に基づく磁力可視化による電動モーターの効率改善、物理的な制約を超える利活用もスタートしている。

 最新ICTの成果を活かすために、富士通は「先進ICTによる価値」と「新たな知見を活かす現場力」の2つを提供する。先進のICTには、離れた拠点とのコラボレーションを易にするクラウドサービスがある。富士通は世界で100カ所を超えるデータセンターを展開しているので、どこからでも利用できる。

「京」の商用版の利用で高度なシミュレーションも可能に

 また、京の商用機にあたるPRIMEHPCFX10を利用すれば、物理的な制約を超えた高度なシミュレーションも不可能ではない。FENICS II M2Mサービス経由で収集した実世界のデータと、企業内に蓄積したデータをInterstage/Symfowareやクラウドのデータ活用基盤サービスで分析するビッグデータアナリティクスを利用すれば、複合的なデータを新しい知見に変えることもできる。

 その新たな知見を現場に活かすための取り組みとしては、見える化・スリム化・最適化によって既存ICTを刷新するモダナイゼーションがある。これによって運用・維持コストを削減すれば、新領域への挑戦や成長分野への投資をその分だけ増やすことができる。

●新たな知見をビジネスの現場に活かす
●新たな知見をビジネスの現場に活かす
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 さらに、富士通自らも体制を見直すトランスフォーメーションによってビジネスを変革するため、今年4月に組織をマトリックス型に変更し、お客様に寄り添う営業体制を強化した。

 ICTは、これからのビジネスと社会をリードするパワーをようやく備えるに至った。そのパワーを豊かな未来の構築に役立てられるように、富士通は人々が安心して暮らせる豊かな社会「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」の実現を中期的ビジョンに設定している。それに向けて、コンピューティング、ネットワーキング、フロントの3つの基盤技術に磨きをかけ、様々なサービスインフラを開発・提供していく所存だ。