これまでイノベーションは技術革新と訳され、経営のコントロールが及ばない領域、あるいは一部の優れた研究者・技術者に委ねざるを得ない領域と考えられてきた。しかし、最近、イノベーションの意味をとらえ直そうという機運が高まっている。企業変革としてのイノベーションは、ベストプラクティスの模倣ではなく、知の合成と大胆な変化を伴うビッグアイデアの創出と考えられるようになってきた。

 知の合成は4つのプロセスを経て進んでいく。具体的には、必要な情報を検索し、それらを評価し、意味を抽出し、新しいアイデアを組み立てるというプロセスを踏む。これを回すエンジンは大胆な変化の目標を設定することだ。

 イノベーションには、相互・継続的な知恵の交換と合成が欠かせない。その場がネットワークだ。組織(人の集合)による知恵を融合し、暗黙知の交換による知の合成(抽出と組み立て)が行われる。異なる視点をぶつけ合うことで、アイデアは膨らみ、大胆な変化にチャレンジするようになる。ただし、意見交換だけでは、ネットワークは機能しない。無作為にメンバーを選んだ結果、議論が噛み合わない“ネットワークカオス”の問題に悩まされることがある。

ネットワークが機能するカギは体系と環境、プロセス

シグマクシス パートナー 大原 聡 氏
シグマクシス
パートナー
大原 聡 氏

 では、ネットワークを機能させるため必要なものは何か。シグマクシスは(1)体系の設計、(2)環境の整備、(3)プロセスの管理、という3つの要素が必須と考える。

 1つ目の体系の設計では、メンバーの多様性、チームの規模感、メンバーの選定が大切だ。多様性は過剰になると議論が広がり収拾がつかなくなる。共通の基盤=共通プロトコル(議論の進め方)を共有させ、メンバー同士の相互理解が進み、議論が深まるように工夫すべきだ。また、階層型の組織ではないので、一定の人数以上になると維持が難しくなる。それぞれのメンバーは対等だが、その中から何人かに中心的な役割を担ってもらうと連携が進む。メンバーを選定する際には、誰がどのような知識や経験を持っているかを可視化したうえで実施すべきだろう。

 2つ目の環境の整備では、ビジョンとモチベーション、コラボレーションの観点で考えるとよい。ビジョンとは、活動を通して何をつくるのか目的や目標を設定すること。一定の抽象度を持たせたビジョンを設定すれば、目的に解釈の幅が生まれ、メンバーの想像力は膨らむ。モチベーションはネットワーク活動を大きく左右する。メンバーにワクワク感を持たせ、やりがいを感じてもらうには、ビジョンの共有と共鳴、フィードバックの提供などが必要だ。従来型組織の関係を持ち込まず、責任や上下関係から離れてオープンに意見を出し合うといった行動原則を徹底し、コラボレーションを醸成することにも努めなければならない。

チームの創造性を刺激する創作セッションと討議セッション

 3つ目のプロセスの管理では、討議モードのマネジメントが成否を分ける。討議モードにはアイデアの発散、アイデアの集約の2つがある。発散と集約を交互に繰り返しながら、知恵の融合を目指す。発散モードのときは奇抜さや思い付き、集約モードでは構造化や理由づけなどを重視する。

 創造の成果をステータスで確認できることも大切だ。当社で実施しているアイデア発表会では、発表後、ほかのメンバーがコメントを出し合ったうえで、どのステータスにあるかを認定する。例えば、実行計画の検討に移れる優れたアイデアは“Qualified”と認定される。

 自社内だけでなく、お客様に対しても知の融合を推進するためのサポートを提供している。その1つがVision ForestProgram。創作セッションと討議セッションの2部構成で、前者ではアートを通したコミュニケーションを、後者では経営課題を討論する。

 「こんな会社にしたい」というテーマの絵を描き、互いに意見を述べるとしよう。絵には正解さを求めないので、参加者一人ひとりが自由な発想で意味づけや解釈を語れる。自分の思いをはき出したうえで討議に移ると、遠慮して発言できなかったこと、創造的なアイデアが次々に飛び出す。当社のコンサルタントはファシリテーターとして参加する。

●企業変革としてのイノベーションとは
●企業変革としてのイノベーションとは
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 日本企業にとって、イノベーションによる企業変革は喫緊の課題である。シグマクシスは多様なサービスを通して、日本企業のイノベーション創出に貢献していきたい。