awardロゴ

 初めに栄えある賞をいただいたことにお礼を申し上げたい。受賞の対象となったグローバル事業推進の基幹システム刷新「3Gプロジェクト」は、アサヒグループの共通業務システム基盤を構築するため2010年に始め、現在も継続中だ。第4次(2010~2012年)と第5次(2013~2015年)の中期経営計画では、IT部門も収益向上とコスト削減に積極的に取り組むことにした。その施策の1つが成長への貢献とコストダウン/効率化を狙う3Gプロジェクトである。オープン化とグループ共通の業務システム基盤の活用によって、ITコストを年間5億円削減する計画を立てている。

 3Gプロジェクトを始める前の当社の業務システム基盤は、事業領域(酒類・飲料・食品)ごとに業務アプリケーションとサーバーを置くサイロ型になっていた。データ連携もホストコンピュータ上で業務ごとに行う仕組みになっており、全体として非効率な状態になっていたことは否めない。このような個別最適化の状態から業務処理とデータ連携を事業領域共通の基盤上で行うグループ最適化の状態へ刷新するのが3Gプロジェクトの狙いだ。

共通の業務システム基盤を共有サービスとして提供

アサヒグループホールディングス 代表取締役副社長 本山 和夫 氏
アサヒグループホールディングス
代表取締役副社長
本山 和夫 氏

 併せて、オープン系サーバーと仮想ソフトウエアを組み合わせたプライベートクラウドによる柔軟なIT基盤実現も目指した。3Gプロジェクト全体の完了時期は2016年に設定している。

 さらに、この共通業務システム基盤はアサヒグループホールディングスのIT資産と位置付け、各事業領域を担当する事業会社に有料のシェアードサービスの形態で提供する。狙いはあさひグループ内のIT投資配分の最適化による維持コストの低減と品質維持。業務に精通した人材を、各事業会社から共通業務システム基盤を管理するアサヒプロマネジメントに集めて、ITと業務の両方のプロを育成するための体制も整備した。

 第4次中期計画の最後の年となる今年、共通業務システム基盤の構築が完了する。2013年からの第5次中期計画では、さらなるITコスト削減を目指し、基幹系システムの業務アプリケーションを統合・集約していく。

 もちろん、1つの業務アプリケーションがすべてに対応できるわけではない。実際には、事業会社ごとの業務アプリケーションを生産・調達、原価、販売・物流、財務会計の4つに大別し、類似性の高いものを同じ業務アプリケーションに統合・集約するという現実的な対応を進めた。

倉庫管理や営業統計も統合、6年間で36億円を節約する

 例えば、永続的なコスト削減を実現するため、各事業会社の物流基幹システムと用意に連携できるグループ統合倉庫管理システムの構築を開始した。倉庫管理システム(WMS)を統一することによって共同配送が可能になり、倉庫と物流の両コストを大幅に削減できる。このグループ統合倉庫管理システムが受け持つのは、在庫管理、補充、ピッキング、積み込みの各作業まで。業務上の理由から、受注と配車についてはビールや飲料とその他の商品で別のシステムを使っている。

 また、営業統計システムについても、アサヒビールが先行導入して2011年に稼動させたプライベートクラウドサービス型の分析ツールをグループ全体で利用する予定。最終的には営業実績データの抽出と解析が一元化される。財務会計システムもグループで統合する計画で、ITコスト削減に加えて経営分析情報の可視化、予算統制の強化、グループ会社間取引の効率化などの効果を期待している。海外事業会社のIT機能も2015年までに統合を予定し、オーストラリアで開発したERP基本モデルを他地域のヘッドクォーターに順次横展開していくことで、連邦型の統合で最適化を進めていく計画だ。

 こうした共通化・統合化によるITコスト削減効果は2011年から2015年までで36億円に達する見通し。積極的な投資でITを高度化し、ITの総コストと維持コストを削減してくのがアサヒグループホールディングスの長期的なIT戦略である。

グランプリはアサヒグループHDの基幹システム基盤

 IT Japan Award 2012は、日経コンピュータに掲載された1年間の記事の中から優れたIT活用事例を取り上げて表彰するもの。審査基準は「経営革新・業務改革への貢献度」「システム構築・活用における独創性」「採用技術・手法の先進性」の3点に置かれており、松田晃一氏(情報処理推進機構ソフトウェア・エンジニアリング・センター所長)を長とする外部有識者の委員会が選定した。

 グランプリに輝いたのは、アサヒグループホールディングスの『グローバル事業推進の基幹システム刷新「3Gプロジェクト」』。これは、食品企業世界トップ10を狙う同ホールディングスの基幹系システムのための基盤として構築されたオープン形のプライベートクラウド。システムのグローバル共通化と今後の合併・買収(M&A)を容易にする柔軟性が高く評価された。準グランプリは、いろどりの『地域農家のビジネスを支援する「上勝情報ネットワーク」』とガリバーインターナショナルの『中古車小売事業を強化する「ガリバーウェブサービス」』である。

 上勝情報ネットワークの事例は、平均年齢70歳以上の農業従事者にタブレット端末を配布して、農産物販売業務の処理を実行してもらうというユニークなもの。ガリバーウェブサービスの事例でもタブレット端末ipadを営業担当者や店長に配布し、中古車販売ビジネスの強化に結び付けている。

 グランプリの贈賞式は、7月4日、IT Executive Forum「IT Japan 2012」の会場である品川プリンスホテル(東京・港区)で開催された。

●IT Japan Award 2012グランプリの贈賞式の様子
●IT Japan Award 2012グランプリの贈賞式の様子