「アップルがMDMの仕組みを作ったのは、消費者向けの製品であるiPhone/iPadをBYOD(Bring Your Own Devices)で利用できるようにするためだ」。MDMツール向けのエンジンを開発するBizMobileの松村淳社長はこう指摘する。アップルはiPhone/iPadの業務利用に関して、個人所有の端末を業務に用いるBYODとしての使い方しか想定していない。企業がiPhone/iPadを大量購入して、業務用端末として大量配布したりするのが難しいのはこのためである。

 大塚商会ICTソリューション推進部モバイルソリューション課の丸山義夫課長は、「iPhone/iPadを従業員に配布する上で、取り扱いに悩む最大のポイントがApple ID」と指摘する。Apple IDは、iPhone/iPadを使用する際に必要となるIDである。App Storeからアプリケーションを購入/インストールしたり、クラウドサービス「iCloud」を利用したりする際に使う。

 Apple IDの作成には、アップルのWebサイトでのユーザー登録が必要だ。Webサイトでは、登録に必要な情報を手入力しなければならず、CSVファイルを使って複数ユーザーを一括して登録するのは不可能である。Apple IDの作成や、その後のiPhone/iPadへのApple IDの登録は、すべて手作業となる。数百台以上のiPhone/iPadの準備には、膨大な手間を要する。

 Apple IDを大量に作成する際には、事前にアップルへの連絡が必要になる点も忘れてはならない。Apple IDを同一IPアドレスの端末から大量に作成しようとすると、アップルは不正があったと判断して、リクエストを遮断してしまう恐れがある。

 あらかじめ設定を施したiPhone/iPadを大量配布したいのであれば、通信事業者やエンタープライズパートナーが提供している「アウトソーシングサービス」のキッティングを利用するのが効率的だ()。Apple IDの作成や設定、その後のアプリのインストールなどを代行してくれる。

図●アウトソーシングサービスの概要
キッティングを利用すれば、iPhone/iPadの大量配布を効率化できる
[画像のクリックで拡大表示]

エンドユーザー任せにする手も

 ガリバーはiPadを大量導入する際に、Apple IDの取り扱いをエンドユーザーに任せた。個人で作成したApple IDを、会社支給のiPad上で使ってもよいとしている。「会社支給のiPadと個人所有のiPhoneで同一のApple IDを使えば、従業員はApp Storeで購入したアプリを両方の端末で利用できる」(同社の椛田氏)と考えたからだ。従業員は会社支給のiPadを、いわば個人の私物としても利用できる。ガリバーはiPadを支給しつつ、実質的な運用はBYODとしているのだ。