北欧から広まり、日本でもブームが起こっているという「フューチャーセンター」を、日本での第一人者が初学者向けに解説する。フューチャーセンターとは、関係者が集まって革新(イノベーション)を生み出したり、社会問題を解決したりするために用いる「専用の場」のこと。副題にあるように、利害関係者や専門家が対話を通じて知恵を終結し、新しい価値を発想するための仕組みに特徴がある施設である。

 一例として、冒頭ではオランダ国税庁が運営する「シップヤード」などを写真で紹介している。施設内のある会議室は宇宙船を思わせる奇抜なデザインで統一され、会議の模様は参加者が変わった道具で遊んでいるかのようだ。自由な発想を促し、創造性を高める場作りがこの施設の重要な機能の一つだという。ただし専用施設が必須ではない。参加者に意外感を与えたり意味性のある場所を使ったりして発想を促す、ボードや模造紙などでアイデアをすぐ可視化できるといった、運営の工夫で代替する方法も紹介している。

 フューチャーセンターはスウェーデンで生まれ、デンマークやオランダなど欧州の小国で広がった。人口や資源が少なく、人材の魅力で勝負する「知的資本経営」に注力する国々ばかりだ。そして、工業資本から知的資本に転換を迫られている日本でも注目を集めた。筆者らの努力もあり、企業を中心に設立の取り組みが活発化しているというエピソードは心強い。この活動に評者らも何らかの貢献したいとの思いを強く持った。

 施設の役割や機能に加え、運営方法や会議の開催方法なども平易に解説してあり、実践的な点も評価したい。筆者は「戦略で人を動かすことは難しいが、新しい人とのつながりが一瞬で人の行動を変える」とフューチャーセンターの意義を説く。多様なスキルを持つ人が交わってアイデアを創出し、未来の不確実性に立ち向かうという考え方は、ソーシャルメディアが台頭する今の時代に合った方法論といえるだろう。

評者 村林 聡
銀行における情報システムの企画・設計・開発に一貫して従事。三和銀行、UFJ銀行を経て、現在は三菱東京UFJ銀行常務執行役員副コーポレートサービス長兼システム部長。
フューチャーセンターをつくろう

フューチャーセンターをつくろう
野村 恭彦著
プレジデント社発行
1680円(税込)