2000年3月。ソニーと米Panavision Inc.が開発したデジタルHDビデオ・カメラ「HDW-F900」は,無事George Lucasの眼鏡にかなった。これを受けて米Lucasfilm Ltd.は,6月にオーストラリアで「エピソード2/クローンの攻撃」の撮影を開始する。9月をメドに撮影を終え,特殊効果の追加などのポスト・プロダクション工程に移るスケジュールだ。封切りの期日は,2002年5月である。

 この間,Lucasfilm社の傘下にあった米THX Ltd.は,デジタル上映,デジタル撮影に続く,デジタル・シネマの第3の要素に取り組んだ。家庭のリビング・ルームにおける再生である。未熟だったDVDの複製技術に手を入れ,家庭でも制作者の意図する色合いを再現する技術を開発した。同社の視野には,リビング・ルームに直接映画を配信する日が入っていることは間違いない。

 THX社はエピソード2の公開直後の2002年6月に独立企業になった。その後もLucasfilm社は,同社の大株主として影響力を保持している。

In the Beginning Was Laserdisc

 Lucasfilm社がデジタル・シネマ技術に注ぐ情熱を考えれば,同社が家庭での上映に目を配ること自体は,驚くに当たらない。意外なのは,同社の取り組みがレーザーディスクの時代にまでさかのぼることだ。THX社は,レーザーディスクの画質・音質を認定する事業を,1982年に始めた。最初の認定作品はJames Cameron監督の「アビス」のレーザーディスクで,1983年に世に出た。

 THX社でDirector of Technologyを務めたDave Schnuelleによれば,同社はその後,レーザーディスクの制作会社向けに,映像信号のS/Nや色の自動測定システムを開発する。同社は,このシステムに用いた評価信号のパターンで米国特許を取得。特許番号は5,353,117で,レーザーディスクに収録した映像の色彩の改善に利用できる。このシステムは,1995年に松下電器産業とパイオニアに譲渡された。

 THX社の取り組みは,DVDの時代になっても続いた。その作業を率いたのが,Daveの後継者で現在THX社のVice President of Technology and Developmentを務めるRick Deanである。Rickは,1999年5月に「エピソード1/ファントム・メナス」が公開された直後,THX社に加わった。技術に絶大な信を置く,物静かな人物だ。映画用フィルムを手掛ける米Deluxe Labs社のvice president of engineeringだった彼を,DaveがTHX社に招いた。

 同僚たちと同様,RickもSTAR WARSファンである。「STAR WARSに参加できるチャンスに,飛び付かない人がいるわけがない。私はGeorgeと,彼がTHX社を設立して取り組もうとしていることを,とても尊重している」(Rick)。

図●左:「エピソード1/ファントム・メナス」のDVDのパッケージ(Copyright c Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.),右:ホーム・シアターで, 特定のDVDを映すときに色や音声を正しく設定するためのソフトウエア 「THX Optimode」(現在の名称はTHX Optimizer)を開発している様子
図●左:「エピソード1/ファントム・メナス」のDVDのパッケージ(Copyright c Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.),右:ホーム・シアターで, 特定のDVDを映すときに色や音声を正しく設定するためのソフトウエア 「THX Optimode」(現在の名称はTHX Optimizer)を開発している様子