2012年6月のランキングで米IBMに首位の座を譲ったものの、2011年に国産のスーパーコンピューターとして久々に世界ランキング1位を記録した「京」の快挙は日本に大きな希望を与えた。京をはじめ、東京証券取引所の株式売買システム「アローヘッド」やクラウドを使った農業支援など、社会インフラに関わるIT(情報技術)開発に携わった富士通の8プロジェクトの軌跡を描いたのが本著だ。

 意義のあるプロジェクトとはいえ、誰もが初めから意気軒昂に取り組んだわけではない。失敗のリスクに不安を感じたり、採算性などの面から社内の冷たい視線を感じたりしながらプロジェクトに入り、悪戦苦闘しながら目標に近づく姿を描く。

 都合の悪い話も隠さない。東証のシステムがダウンした後、新システムでも再び富士通を選んでもらい、難関プロジェクトを完遂したが、またダウンしたという事実も率直に語られる。

 野中郁次郎氏は解説のなかで、これらのプロジェクトの共通項として「実践知」が発揮されていることを挙げ、「場をタイムリーに作る」「直観の本質を概念化する」など実践知を構成する要素を説く。こうした視点で再度読み直すと、さらなる学びを得られる。

挑む力

挑む力
片瀬 京子/田島 篤共著
野中 郁次郎解説
日経BP社発行
1470円(税込)