買い物のたびに顧客一人ひとりに細かい質問をしなくても、「この商品がぴったりです」とお薦めできるようになれば、顧客満足度を高められる。過去の購買履歴を顧客情報として蓄積して活用するのはもちろん、化粧品であれば接客で生活習慣や肌質を聞き出して記録したり、小型センサーを内蔵した飲料の自販機に性別や年齢を自動判定させたりと、より有効なデータを収集するための工夫や仕組みも必要となる。

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 「また、同じ質問…」

 実生活で様々なサービスを受けていると、ついこうグチをこぼしたくなることがある。以前、電話や店頭で店員に伝えた内容をもう一度聞かれてしまうからだ。

 こうした利用者の不満をなくそうと総額約50億円をかけて顧客管理システムを刷新した会社がある。化粧品販売のファンケルだ。

 「お客様にはこの製品がお薦めです」

「以前、ご購入いただいた乳液はいかがでしたか」

 店頭のカウンターで来店客と話す店員の手にはタブレット端末がある。この端末で顧客の生活習慣や肌質などを一度記録すると、ほかの店舗の店員でも通信販売のオペレーターでも同じデータを見られる。また、購入履歴がチャートで示され、そろそろ買い替えが必要な化粧品を表示する。

リピーターの減少を食い止める

 さらに、店頭で顧客の肌質をカメラで判定すると、自動的にお薦めの製品が分かる。つまり、初めて接客したお客でも、以前に来店したか、もしくはカタログ通販やインターネットで購入していれば、すぐに製品の話に入ることができるのだ。

 無添加をセールスポイントとして通販と直営店で化粧品を販売してきた同社には、約240万人の会員がいる。累積の購入明細データは2億7000件に達する。しかし、以前はカタログ通販と直営店、インターネットの販売データはばらばらに管理されていた。さらに、顧客から聞いたカウンセリング情報は直営店ごとに紙のファイルで管理するにとどまっていた。

 2011年5月から開始したシステム改編で、まず顧客管理情報を一元化した。これにより、誰が何をいつ買ったのかが、販売経路にかかわらず分かるようになった。次に手がけたのが、タブレットによる接客と、カウンセリング情報のデータ化だ。

写真1●ファンケル店頭では2012年3月からタブレット端末を使って接客する(左)。製品の購入履歴(画面上)やお薦め製品(画面下)を表示できる
写真1●ファンケル店頭では2012年3月からタブレット端末を使って接客する(左)。製品の購入履歴(画面上)やお薦め製品(画面下)を表示できる
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 2012年3月から全国177の直営店にタブレットを導入(写真1)。同社は化粧品ブランドの刷新も同時に進めており、新たな製品知識が販売員には求められている。タブレットによる製品の選定でその負担を軽減する効果も出ている。

 カウンセリングの内容も、店頭とコールセンター、インターネットでかなりの部分を統一した。電話で一度答えた内容は、店頭で改めて聞かれることはなくなった。

 顧客への郵送作業もシステム改編で短縮した。同社ではリピートの多い約100万人の顧客向けに、適切な情報誌とカタログを組み合わせて送る。どの顧客に送るか、どのカタログを入れればいいか。例えば乾燥肌を気にしている顧客には、それに適した化粧品のカタログを入れなければいけない。

 以前はこの選別作業に1カ月を費やしていたが、今では1週間で終えられるようになった。

 ファンケルがこうしたデータの活用に踏み切ったのは、リピーターの減少を食い止めるためだ。かつては80%近かったリピート率が今では5割を切っている。それにより収益の減少が続き、2012年3月期は2期連続で減収減益の見通しだ。対策として考えたのは一度獲得した顧客を逃がさないこと。製品の買い替えのタイミングを確実に把握することだ。

 来年の秋に予定している第3弾のシステム改編ではフェイスブックなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用するなど、顧客に効果的に情報を送ることを狙う。

 同社営業本部で販売システムを担当する前田弘之氏は「システムの処理速度が飛躍的に上がり、さらに店頭ではタブレットを活用することで、以前にはかなわなかった迅速な接客が可能になった」と話す。