生産管理システムと製造システムは密に連携する工場用の基幹システムであり、要件定義や開発はほぼ同時並行で進めた。ただ、システムの形態は違うものにした(図2)。
生産管理システムは本社がある日本の大阪市のデータセンターに設置し、プライベートクラウドとしてネットワーク経由で利用する。この形態なら、システムの運用や保守コストを削減できるほか、現場が勝手にシステムを改変できない、生産情報を一元管理できるといったメリットが期待できるからだ。
これに対し、製造システムは工場ごとに設置する。リアルタイム性が求められる生産指示などの管理や制御システムと連携するため、各工場に置くのが適切と判断した。ネット経由での利用では通信環境により遅延が発生する可能性があるからだ。
大洪水で工場が浸水する事態に
開発は順調に進んでテスト工程に入った2011年8月。さらなる想定外の事態がプロジェクトに襲いかかる。タイの大洪水である。
最初にシステムを導入した、トラクターやコンバイン製造を手掛けるサイアムクボタ(SKC)は新工場と旧工場という2カ所の生産拠点を持つ。新工場は無事だったが、バンコク北部の旧工場は10月に完全に浸水してしまった。
SKCでは急きょ、新工場から旧工場へ人員を派遣して生産ラインの復旧支援に取り組んだ。システム導入に向け、現地スタッフに協力してもらえる状況ではない。そこで、2011年中に完了する予定だったシステム導入を1カ月延期。旧工場の復旧のメドがついた2012年1月の稼働開始とした。
こうした曲折を経て2012年1月、標準システム導入の第一弾となるSKCの新工場で生産管理システムの利用を開始した(写真5)。稼働当初は、発注予定の帳票がうまく出力されない、データ連携がうまくいかないなどのバグが噴出した。
これらの不具合に対応しながら1月中に、エンジン製造を手掛けるクボタエンジンタイランド(KET)でも新システムを稼働。タイの主要工場での生産管理システム導入が完了した。
中国、北米などへ横展開
想定外の苦労が続いたタイの工場へのシステム導入だが、「海外用の標準システムを作り、実際に導入した効果は大きかった」と藤本は評価する。
海外工場向けに特化したため、搭載する機能は日本の工場向け標準システムの6~7割程度に収まった。これにより、国内工場用のシステムに比べ、大幅な開発コスト削減を可能にした。
システム導入期間の短縮にもつながった。これまで、一つの工場へのシステム導入期間は1年くらいだった。標準システムを使えば、2カ月程度で導入できることが確認できた。導入コストも、「各工場に個別に展開する場合に比べて約半分」と東は言う。
タイに入れた社内標準の生産管理・製造システムは、中国や北米の工場へと横展開していく計画だ(表4)。中国の蘇州市と無錫市の工場には2~4月に順次稼働させた。続いて北米工場への本格導入へ乗り出す。