写真1●名古屋銀行本店(名古屋市)
写真1●名古屋銀行本店(名古屋市)
写真2●名銀南通支店向けシステム導入プロジェクトの主要メンバー
写真2●名銀南通支店向けシステム導入プロジェクトの主要メンバー
左から平岡秀之 事務システム部システム開発グループ課長、服部悟 事務システム部部長、安達啓介 国際部国際業務管理グループ企画役

 「金融サービス用システムを導入した時点で、プロジェクトの8割が終わった気になっていた。しかし、とんでもない勘違いだった」。名古屋銀行(写真1)事務システム部部長の服部悟(写真2中央)は苦笑いする。

 名銀は中国・江蘇省南通市の支店に、金融サービス用と、中国人民銀行など金融当局への報告用の二つの業務システムを導入した。投資額は1億5000万円程度とみられる。パッケージソフトの開発元である電通国際情報サービス(ISID)、日中間や中国内での通信回線の調達を任せたKDDIと連携し、約2年にわたるシステム構築プロジェクトを完遂した。


12年ぶりの海外支店開設へ

 南通市は長江(揚子江)河口の北部に位置する、中国沿岸部の主要都市である。長江対岸に位置する上海市からは、高速道路を使えば車で2時間程度の距離だ。

 名銀が南通市に駐在員事務所を開設したのは1986年。経済開発特区を古くから設置している同市には、名銀の地盤である愛知県の製造業が生産拠点を設けている。駐在事務所を立ち上げて、顧客の中国進出支援を狙った。

 そのうちに「支店として金融サービスを展開できれば大きな収益機会が生まれることに気づいた」と、国際部国際業務管理グループ企画役の安達啓介は振り返る。南通市への日系企業の進出が加速しており、現地での拠点立ち上げ支援や情報提供だけでなく、預金や融資など金融サービスの需要も出始めていた。現地で金融サービスを提供するには中国政府から認可を受け、南通の拠点を駐在事務所から支店に格上げする必要がある。「この機を逃さず、早期に支店への格上げを急ぐべきだ」と安達らは考えた。

 そこで名銀は2009年夏、南通事務所の支店格上げに向けた取り組みを本格化。時を同じくして、中国で金融サービスを提供するためのシステム構築プロジェクトが始まった(表1)。

表1●名古屋銀行南通支店における二つの業務システム導入プロジェクトの経緯
表1●名古屋銀行南通支店における二つの業務システム導入プロジェクトの経緯

パッケージ選定から着手

 まず着手したのが、金融サービスを中国で提供するためのシステム構築だ。本店や国内支店ほどの機能を持たせる必要はないが、海外での銀行支店業務を可能にし、多言語で利用できなければならない。早期の導入が必要なため、独自開発ではなくパッケージソフトを利用することにした。

 候補は二つ。ISIDが開発・販売する海外拠点向け銀行業務用パッケージ「Global Banking System II」(GBS II)と、別ベンダーのパッケージだ。両社のコンペにより、最終的にISIDのGBS IIの採用を決めた。

 「提案内容を評価したと同時に、撤退する前の名銀ニューヨーク支店でGBS IIを使っていた経緯を考慮した」と、事務システム部システム開発グループ課長の平岡秀之は説明する。南通から近い上海にISIDが現地法人を開設していたので、手厚いサポートが期待できる点も決め手となった。

 ベンダーの最終決定を経て2010年2月、南通支店におけるシステム開発方針や予算などが名銀の役員会で承認を受けた。メンバーはさっそく、本格的なシステム導入に向けた検討を開始した。

システム構成を工夫しコスト減

 導入は、金融サービス用のシステムから着手した。ここにGBS IIを導入する計画だったが、ベンダーが推奨する構成をそのまま採用するのではなく、名銀が考えたシステム構成を含め三つの案を検討して決めた(表2)。

表2●名古屋銀行が検討した、南通支店における金融サービス用システムの構成案
表2●名古屋銀行が検討した、南通支店における金融サービス用システムの構成案
様々な対障害性の高さ、コストなどのバランスを考慮して比較検討し、案3を採用した。
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 ISIDが推奨するGBS IIの標準構成は、中国の拠点側と日本国内の両方にGBS IIを搭載したサーバーを設置し、互いにバックアップしながら運用するというものだった。これに対し名銀は、GBS IIのサーバーを南通支店には設置せず、名古屋市内の同行のデータセンターに集中させる構成を考えた。南通支店には操作用端末だけを設置し、ネットワーク経由で名古屋のシステムを利用することになる。

 通常時の運用負荷、ネットワークやサーバー、操作用端末の耐障害性の高さなどを比較。それぞれの構成のリスクやコストを検討して、最終的に自ら考えた案に決めた。この構成であれば、GBS IIを搭載するサーバーの保守費や通信費も削減できる。初期コストは3割、運用コストは4割程度、バックアップできる構成よりも安くできる試算だった。

 構成が決まったあとの構築作業は順調に進んだ。2010年5月からGBS IIの導入が始まり、日中間の国際ネットワークの開通を経て2010年10月にはGBS IIサーバーの稼働と、操作用端末の導入が終了。日本の拠点で使っている業務用システムと試験接続して、問題なく使えることも確認した。

 プロジェクトはここまで、大きな問題もなく進んでいた。ところがその後、予想外に大きな山場が待ち受けていた。