およそ11年前(1999年頃)にスタートしたISOWA(愛知県春日井市)の改革は、ゆっくりとしたペースではあるが着実に、考え抜く習慣を身につけた社員を増やしてきている。社員数が300人弱の会社だから、1人でもそういう社員が増えていくと、会社が持つポテンシャルの底上げに貢献していることが見えやすい。

 前回も書いたように、この改革は“社長発”という特性を持っている。社長発の改革は社長自身の軸がブレないとき、その成功の確率は極めて高い。逆に社長の独り善がりに陥ることで失敗してしまう危険性も同じくらいたくさん持っている。

 社長という存在は、それがどんなに優れた(手腕という意味でも人格という意味でも)社長であっても、裸の王様になる危険性を常に色濃く持っているものだ。私の経験からいえるのは、自分をさらけ出すことができる社長は比較的、その危険性から逃れやすい。そして、ISOWAの磯輪英之代表取締役社長は間違いなくそのタイプである。

 同族のオーナー企業の場合、経営と社員との関係が信頼関係になっているのは極めてまれで、良くて相互依存関係でしかないと前回に書いた。この関係を信頼関係にしていくことが何よりも大切だと考えた磯輪社長は「ブレないこと」「経営情報をオープンにすること」に加え、社長になった時から年に1回、社員が無記名で任意に社長を評価するという「社長の評価制度」を取り入れた。社員から受けた評価を基に、自分自身の言動を反省しようというのである。

 社長が社員を評価するのは普通だが、社員が社長を評価する仕組みというのはあまり聞かない話だ。しかも、その結果を秘密事項にしないとなると、私はいまだかつて聞いたことがない。磯輪社長も当初はどんな結果になるのか不安で、何度もやめようかと悩んだらしい。しかし、管理職の評価制度をすっかり作り替えたことをきっかけに、腹をくくって自分自身(社長)の評価制度も導入することにした。

 管理職の評価をがらりと替えたとき、数値実績とか業績の項目を一切無くした。外部環境に大きく左右される短期的な業績を基にして管理職を評価するのではなく、長期的な業績につながるスピードと対話をベースに「方向性を打ち出し、責任を持って決め、推進する力」と「対話力」の二面で評価することにした(現在はさらに進化している)。

 このような思い切った内容の評価制度を管理職に導入するに当たり、社長である自分自身に対しても同じような観点で社員に評価してほしいとの思いから、毎年決算が確定した後に社員による社長評価を行うことにしたのである。その評価項目は以下の7つである。

  1. 社長は分かりやすい言葉で企業理念や経営方針について、繰り返しメッセージを出している
  2. 社長は積極的に現場を自分の足で歩いている
  3. 社長は素直に人の話に耳を傾け、理解しようとしている
  4. 社長は「個人的な好き嫌い」ではなく、公正に人を評価している
  5. 社長は自分が下した判断について、失敗も含めて必ず振り返りを行い、それを社内に公表している
  6. 社長は「勝ち残る」ための企業変革に本気で取り組んでいる
  7. 社長は実務現場の意見・アイデアやお客様・市場動向を十分に把握したうえで、信頼できる決定や判断を打ち出している

 これら7つの評価項目について、「全くその通り/かなり当てはまる/やや当てはまる/やや当てはまらない/かなり当てはまらない/全く当てはまらない/わからない」 の7段階で社員に評価してもらう。この社長評価を始めるに当たって磯輪社長が考えたのは「社員一人ひとりの評価基準はバラバラだろうから、評点そのものよりも毎年同じ視点で定点評価を受け、全体の評価が前年よりも少しでも上がるように努力しよう」ということだ。

 こうして始まった社長評価だが、早々に厳しい現実と向き合うことになった。2年目をピークに評価が下がり始め、4年目にはさらに大きく落ち込んだ。肯定的な評価が50%を割り込んで、否定的な評価とほぼ同じ水準になってしまった。