考える力には、生まれつきの差という側面があることも否定できない。しかし、最高学府と思われている東京大学法学部卒でも、年齢とともに悲しくなるほど考える力を無くしている人をこれまたたくさん知っている。やはり、考える力というのは、その人がどういう人生の過ごし方をしてきたのかが非常に大きく影響するという仮説が十分に成り立つだろう。
経営環境が安定している時代だと、今まで通りに仕事を安定的に回すだけで、企業は業績を確保できる。こういう時代には、新しい知恵をはぐくむという意味での考える力の必要性はそれほど緊急ではない。しかし、変化の激しい今のような時代になると、過去に経験したことがない事態に常に直面することになるから、新たな知恵が必要だし、考える力が不可欠の要素になってくる。
しかし、こうした激変の時代は同時に、何を成し遂げるにも「やらなくてはならない」作業が昔に比べてはるかに多くなってきている。複雑な要素を抱える時代でもあるのだ。やらなければならないことがとにかく多いから、右から左へとさばいていかないと仕事はすぐに滞ってしまう。つまり、考える余裕や時間を確保しがたい時代でもある。
そんなわけだから、考える力を必要とする時代になっているにもかかわらず、考える力はますます減退していく傾向にある。こうした傾向は本家本元のトヨタ自動車にもはっきりと表れている。
では、どういう環境を整えれば、考える力を鍛えることができるのか。具体的に見ていこう。
日本的経営の強みを持つISOWA
何のために考える力を鍛えるのかといえば、日々の業務のなかで短期的な視点、長期的な視点での問題を解決するためには知恵が必要だからだ(図)。商品を開発するための知恵であったり、改善を進めたりコストを削減したりするのに必要なそれでもある。ただ、事が簡単でないのは、問題解決の研修をいくらたくさんやって考え方を学習したとしても、考える力が鍛えられるわけではないことだ。
問題解決の環境が整っていないところでは、いくら研修で考え方を教え込んでも、そもそも考えようというモチベーションが働かないから、一時のお勉強で終わってしまう。結局、考える力は鍛えられない。そういうところでは、そもそも考えようという意欲がわいてこないのだ。つまり、本当の考える力を鍛えようと思えば、問題解決を促進する「環境」を作ることが前提条件になる。
このことを頭に置いて、具体的な話に移ろう。トヨタを超える会社として、段ボール製造機器メーカーであるISOWA(愛知県春日井市)の事例を解説したい。