経営企画部門を主に担当し、中期経営計画の策定でも中心的な役割を担ったNTTドコモの加藤薫・新社長。中期ビジョンで掲げた「モバイルを核とする総合サービス企業」に向け、「デジタルコンテンツからリアルの『物』まで扱っていく」とする。「安心・安全」を特徴とする商品を一つひとつ増やしていくと語る。

(聞き手は河井 保博=日経コミュニケーション編集長)


様々な課題があると思うが、どこに力を入れていくか。

NTTドコモ 代表取締役社長 加藤 薫 氏
NTTドコモ 代表取締役社長 加藤 薫 氏
(写真:新関 雅士)

 まず、クラウドを活用した新しいサービスをできるだけ多く提供していく。ユーザーがスマートフォンやタブレット端末といったマルチデバイスでサービスを使うようになると基本はクラウド型になる。「しゃべってコンシェル」のようなサービスの積み重ねでユーザーの生活が便利になり、総合力でドコモを選んでもらえればいい。

 モバイル分野は競争が激しく、今後どう変化していくか分からない。フェイスブック、アマゾン、「LINE」を提供しているNHN Japanなど多様な事業者が、競合であると同時に協業の相手にもなる。それぞれサービスの内容や提供方法、生い立ちがまちまちだから、競争や協業の仕方も個々に違ってくる。とにかく何事にもスピード感を持って取り組んでいく。

中期ビジョンで掲げた「モバイルを核とする総合サービス企業」に向けては、具体的に何をするか。

 デジタルコンテンツからリアルの「物」まで扱っていこうと思っている。

 スマートフォンではインターネットを介して何でもできる。だがそうなると、何をどう使えばいいか分からないというユーザーも出てくる。そこでポータルサイトの「dメニュー」とドコモ直営サイト「dマーケット」を設けた。dメニューはコンテンツ仲介、dマーケットはドコモのお薦め品を見せ、提供する場だ。

 このうちdマーケットでは音楽、映像、書籍のほか、角川書店と組んでアニメストアも始めた。今冬にはゲームのストアも開設する。もちろん我々がゲームを作るわけではなく、複数社と組んで提供する。

 さらにその先として、物販もやる。といって、アマゾンと真っ向から勝負しても仕方ない。そこで特徴のある商品を提供しようと、らでぃっしゅぼーやを買収した。有機野菜はアマゾンも扱っていないし、消費者に「安心」や「おいしい」を訴求できる。DVDやCDの分野でもデジタルコンテンツを楽しんだ後にメディアを購入する動きがあるため、タワーレコードを子会社化した。「安心・安全」や「高品質」を特徴とする商品を一つひとつ増やしていくつもりだ。

海外事業は今後どのように展開していくのか。

 「プラットフォーマー」あるいは「アグリゲーター」としての事業が中心になるだろう。一例がドイツ子会社のネットモバイルで、欧州などでコンテンツ配信プラットフォームを提供している。イタリアのコンテンツ配信事業者のボンジョルノも買収した。中国(百度と合弁会社設立)やベトナム(VMG Media Joint Stockに出資)にも進出しており、必要であれば他地域にも拡大していく。

 アグリゲーション・プラットフォーム事業の現在の売上高規模は200億~300億円。この分野を伸ばすほか、モバイル非接触ICカードやM2M(Machine-to-Machine)などの分野も拡大していく。M2Mでは海外大手事業者6社と組むことを決めた。これらを合わせ、2015年度までに1000億~2000億円規模に伸ばしたい。