ある程度大きなプロジェクトの場合、プロジェクトの中間の状況を判断する“関所”のようなイベントを置く会社が多いのではないか。しかし、この関所が「危ない所に手を打って何とか前進できるようにする場」というよりは、「何か粗探しをしてプロジェクトを止めようとしている場」ではないかと感じられることも少なくない。今回はこのような関所について考えてみたい。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ 取締役 PMP


 フェーズの切れ目などの要所要所において、プロジェクト外の組織や機関から客観的な検査を受けなければならないプロジェクトを経験したことがある方は多いと思います。プロジェクト外の組織とは、例えば「品質管理部」とか、「プロジェクト管理部」「プロジェクト監査室」のような名前で呼ばれていたりします。

 それらの組織は、プロジェクトの状況について次のような点を客観的に判断します。(1)該当フェーズの終了判断:予定通りのスケジュール、コストで、予定通りのアウトプットが出ているか。(2)次フェーズの開始判断あるいはサービスインの判断:次のフェーズの予定がしっかりと立てられていて、このまま次のフェーズ(サービスイン)に進んでも問題ないかどうか。

 しかし、その判断内容と言えば表面的・形式的でしかなく、役に立たないものになっていないでしょうか。例えば、普段は現場には全く顔を出さないような方々がやってきて、チェックリストに従いながらヒヤリングを行うだけとか、あるいは現場から所定のチェックリストを出させて、それを見て当たり障りのないコメントを返してくるというような場合がとても多いと思います。

“吊るし上げ”で余計な苦労を強いられる

 会社によっては、同じようなプロジェクトの経験を積んできた有識者や他部門の有識者を交えて、会議形式で質疑応答をする場合もあると思います。こういう場では活発な発言がみられますが、別の意味で役に立たないものになりがちです。

 私が今まで経験してきた多くの場合、そこはプロジェクト担当者の“吊るし上げの場”になってしまいました。関所の番人として判断を下す方々は、自分の成功(失敗)体験を現在のプロジェクトの状況に照らし合わせ、危険な状況を炙り出します。ただし、現場の状況をすべて把握できているわけではないため、具体的な対応策までは言及できません。たいていは問題点を指摘するだけで終わりです。

 ですから、「今の状況からして、私たち(レビューワー側)が検討したこの具体的な対策案を実施した方がいい。明日から一緒にやりましょう!」とか「それでは、私たち(レビューワー側)がお客様の品質部門と調整して道筋をつけてあげましょう!」といったレビューワ―主導の具体的な支援案は、これまでに片手で数えられるほどしか聞いたことがありません。

 最悪の場合、自分(レビューワー)の経験の豊富さや権限を誇示しようと「あのリスク(起きそうにないリスク)は考えたのか。どうなってるんだ。3日以内に対応策を考えろ!」などとあまり本質的ではない指摘をして、プロジェクトマネジャーの仕事を増やすだけの場合も少なくありません。こうした重箱の隅をつつくようなことに熱心になっている会議は、意外と多いものです。あるプロジェクトでは、そうした指摘が20個も出てきました。現場からすれば、「いまさら言われても困る。わかってるならもっと早く言ってくれよ」というのが本音でしょう。

「関所を利用する」という発想の転換

 では、このような不毛な関所の場合はどのように対応するべきなのでしょうか。考え方としては2つの方法があると思います。

 一つは、関所はそういうものだとして一度受け入れ、プロジェクト内の総点検の場として関所を活用してく方法。もう一つは、不毛な関所にならないように、関所のレビューワーをプロジェクトに引き込み、知見を有効に活用していく方法です。

 前者は、関所自体の役割を「自分たちがプロジェクトの総点検をする場」と位置づけ、有識者から「チェックを受ける」という考えから、有識者を「利用する」という発想の転換をすることです。そして、コメントやチェックリストで見つかった問題に優先順位を付け、PMOが中心となって真摯に対応していくのです。

 この作業に対する工数やスケジュールを、プロジェクトとして事前に見込んでおくことがポイントとなります。また、前述したような、あまりにも現実とかけ離れたり本質とかけ離れたりした指摘に対しては、プロジェクトマネジャーやPMOがうまく受け流し、現場への影響を最小限に抑えることも重要です。

 後者は、関所を通るときだけレビューワーに参加してもらうのではなく、常日頃から進捗会議などに参加してもらい、現場の状況を知ってもらうことがポイントとなります。何かあるごとにレビューワーに相談し、レビューワーをプロジェクト側の味方にできれば、本来の関所の機能を果たせるでしょう。

 レビューワー全員がプロジェクトに常に関わるのは難しいかもしれませんが、一人でもプロジェクト側に引き込めればメリットがあります。プロジェクト側の状況を伝えるスポークスマンとしての役割を果たしてもらうことができれば、関所の番人に対応するときの負荷を減らすことができます。

 以上のように、関所が機能していない場合の考えを述べてきましたが、会社やプロジェクトによっては「文句を言うだけではない関所」の役割をしっかり果たしている場合もあります。その場合は、真摯にレビューワーの意見を聞いて、レビューワ―を巻き込み、対応を進めていくと、より良い効果が得られると思います。


後藤 年成(ごとう としなり)
マネジメントソリューションズ 取締役 PMP
 大学卒業後、ニッセイコンピュータ(現ニッセイ情報テクノロジー)に入社。システム・エンジニアとしてホスト系からオープン系にいたる幅広いシステム開発を経験した後、2002年から野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントに携わる。2007年、マネジメントソリューションズに入社。PMOソリューションの開発や各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp