以前、『繰り返される「引き継ぎミス」』にて、引き継ぎの難しさと勘所について書いた。今回は、実際に筆者が失敗した、もう一つの引き継ぎミスについて述べたい。皆さんの引き継ぎに少しでも役に立てればと思う。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ 取締役 PMP


 第56回の『繰り返される「引き継ぎミス」』では、引き継ぎに伴う難しさの典型例として以下の7つの典型例を挙げました。

【典型例1】遅すぎる後任者の指名
【典型例2】引き継ぎ範囲の線引き
【典型例3】後任者の引き継ぎ余力の有無
【典型例4】引き継ぎ時期の代休消化がもたらす余波
【典型例5】引き継ぎ内容のクオリティ
【典型例6】重要な課題の引き継ぎ
【典型例7】引き継ぎ後のコミュニケーション問題

 筆者も日々のプロジェクトにおいて、引き継ぎが発生する場合は上記の点に注意を払ってきました。しかし、重要な注意点が一つ抜け落ちていることに気づきました。それは、筆者が引き継ぎで失敗を経験することによって明らかになりました。

 筆者はあるプロジェクトにて、前述した7つの点に注意しながら引き継ぎを行いました。業務内容をほぼ完璧に引き継ぎ、約1週間は後任者と並行して業務を進め、念には念を入れました。引き継ぎの品質には何も問題がないはずでした。

 ところが、引き継いだ後1~2週間ほどたって、後任者の立ち上がり状況を確認したところ、後任者のパフォーマンスがあまり上がっていないことに気が付きました。業務の内容は完全に引き継いだはずでしたが、何がまずかったのでしょうか。

最も引き継がなければならないのは「人のつながり」

 様々な人にヒアリングした結果、どうやら他のメンバーやキーパーソンとうまくコミュニケーションができていないことが分かりました。その担当者は、今までいくつもの難しいプロジェクトで実績を残しているので、元々コミュニケーションが苦手な担当者ではありません。どちらかというと周りからは「優秀な人」という風に見られていました。

 ここに落とし穴がありました。「後任者は優秀な人」という考えのもとに引き継ぎを進めていたため、私がそのプロジェクトで作り上げてきた「人のつながり」の引き継ぎを怠っていたのです。心のどこかで、「プロジェクト内の人間関係なんて個人で個別に作り上げていくもの」という誤った考えがあったのです。

 PMOとしては、「業務のほぼ90%がコミュニケーションで成り立っている」と言っても過言ではありません。しかし、その肝心のコミュニケーションの基礎である「人のつながり」の引き継ぎを、後任者の紹介程度で済ませてしまったことが失敗の原因だったのです。