システム開発をめぐる契約は、年々複雑さを増している。クラウドを使ったシステム開発やアジャイル開発のプロジェクトなど、開発手法や技術の変化で契約の仕方が分かりにくい場面が増えている。開発契約に携わる法務担当者や現場担当者、弁護士などへの取材を基に、今現場が知っておくべき開発契約の知識を、「ウソ」と「ホント」で解説する。

 今回は、契約書と開発ドキュメントの関係、準委任契約における受注者側の義務についての「ウソ」と「ホント」を取り上げる。

契約書と開発ドキュメントは別物として扱う

ウソ

 契約内容とプロジェクトの進め方や成果物がずれないように、プロジェクトのドキュメントと契約書をリンクさせるとよい。

 日立製作所や富士通は、契約書に添付する書類の内容をプロジェクトマネジメントで利用するドキュメントに正確に反映させることを徹底している。

 これにより、契約内容とプロジェクトの進め方や成果物がずれないようにする。日立製作所の初田氏は、「以前は契約書は契約書、ドキュメントはドキュメントで別々に作られていた。このため、契約内容と成果物やプロジェクト実態が違うことがあった」と説明する。契約内容と成果物が異なれば、手戻りやトラブルの原因になる。

 そこで日立製作所では、契約書に添付する資料として、どのようなSIサービスを実施するかを記した「サービス仕様書」を作成している。サービス仕様書には、システム化の狙いや対象範囲、成果物のスコープや作業工数、マスタースケジュールなどを記述する。

図1●契約書に添付する「サービス仕様書」を基にスコープ定義書を作成する
図1●契約書に添付する「サービス仕様書」を基にスコープ定義書を作成する
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 プロジェクト立ち上げ時には、サービス仕様書の記述内容を基に、プロジェクトのドキュメントの一つである「スコープ記述書」を作成する。スコープ記述書に記述する内容は、サービス仕様書の内容を詳細化したものだ。これにより、契約内容と実際のプロジェクト実態が乖離しないようにしている(図1)。

 サービス仕様書は、見積もりフェーズに作成する「見積もり前提条件書」を基に作られている。見積もり前提条件書からサービス仕様書、スコープ記述書へと記述内容を継承して詳細化することで、見積もり段階からドキュメントの一貫性を保っている。

 富士通は契約書に「受託条件明細」と呼ぶ書類を添付する。受託条件明細は、日立製作所のサービス仕様書と同様の内容を記述したものだ。受託条件明細の記述内容を基に「プロジェクト計画書」や「スコープ記述書」を作成する。「受託条件明細を本格的に作成するようになって3年。プロジェクト期間中の顧客との意思疎通がスムーズに進むなど、現場のPMからの評判も良い」(SSビジネスアシュアランス本部 SSアシュアランス統括部 契約審査部長 大場信昭氏)。