フェイスブックの2012年5月11日のナスダックへの上場は、意外にも大荒れの展開となった。

 上場初日の終値は売り出し価格の38ドルをかろうじて上回ったものの、週明けに下落。一時は31ドルまで下がった。上場直前に、上場幹事のモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスなどがフェイスブックの第2四半期の営業成績が予想を下回るという情報を得て、一部の投資家に対してだけその情報を流したという報道があった。これが事実なら大きな問題で、訴訟の動きも出た。

 普通の企業なら、経営者は大きなストレスやプレッシャーを感じるだろう。株価が下がり続けるようなら、株主から退任を迫られる事態もあり得るからだ。しかしウォールストリートの波乱とは別に、フェイスブックとその創業者兼CEO(最高経営責任者)のマーク・ザッカーバーグは、そのようなプレッシャーをまったく感じていないだろう。これから述べるようにザッカーバーグは、用意周到さと強烈な個性を兼ね備えた人物なのだ。

フェイスブックは今もザッカーバーグの支配下

 まず上場後もフェイスブックの株主議決権の57%は、マーク・ザッカーバーグの支配下にある。株価がいくらになろうと、株主からザッカーバーグを批判する声が上がろうと、ザッカーバーグの意思が優先され、その地位はまったく揺るがない。

 上場でザッカーバーグたちは持ち株を大量に売却したわけだが、ザッカーバーグの議決権だけはむしろ増えるという現象が起きている。これは、最初の投資家でザッカーバーグに次ぐ大株主で取締役のジム・ブライヤーが、売却後の議決権の行使をザッカーバーグに委任したからだという(この仕組みの解明を始め、Facebook上場の財務については、磯崎哲也氏の有料メルマガに詳しい)。

 ブライヤーは、シリコンバレーの名門ベンチャーキャピタル、アクセル・パートナーズのパートナーで、フェイスブックの成功を追ったノンフィクション『フェイスブック 若き天才の野望』に何度も登場するフェイスブックにとって重要な人物だ。ザッカーバーグと同級生数人しかいなかったフェイスブックの将来性を真っ先に見抜き、半ば押し売りのようにして1000万ドルを投資したのがブライヤーだ。