新しいネットの巨人、フェイスブック。登録ユーザー数は全世界で9億人を超えた(2012年8月末時点)。日本でも登録ユーザー数が急増している模様だ。本連載では、『フェイスブック 若き天才の野望』の共訳者である滑川氏が本書の内容を基に、フェイスブックの本当の威力と同社を率いる若きCEO、マーク・ザッカーバーグを紹介する。

 フェイスブックの規模は想像を絶するものがある。ここ2年、年間2億人のペースで拡大を続けてきた。統計サイトSocialBakersによれば、フェイスブックの登録ユーザー数は9億人以上と、インドの全人口(11億5000万)に迫る。

 SocialBakersによれば、日本のフェイスブックの登録ユーザー数は1400万人(2012年8月末現在)だ。フェイスブックの「実名登録制」を日本での普及を妨げる理由に挙げる意見も多かったが、実はアメリカでもフェイスブック以前はソーシャルネットワークへの参加は匿名が普通だった。先輩格のマイスペースのユーザーもほとんどがハンドルネームを使っていた(今でも実名ユーザーは少ない)。フェイスブックがこの常識を変えた。

書籍や映画の登場でフェイスブックが話題に

 実名制がフェイスブックを全世界でこれほど巨大にし、かつビジネスとして成功させた根本的な特徴だと認識され始めたのは、アメリカでも比較的最近のことだ。しかし、フェイスブックが実名制を維持する過程では何度もユーザーからの激しい抵抗があり、フェイスブックの存立そのものが揺らぐような危機さえ起きている。

 根本的な原因は、創立者、最大株主、CEOのマーク・ザッカーバーグの抱くビジョンがあまりにも遠大で一般ユーザーの想像力を越えていたためだが、ザッカーバーグがメディアへの露出やプロモーションにまったく興味を持たなかったことも大きかった。しかし何度かPR上の失敗を繰り返すうちに、ザッカーバーグもユーザーやメディアに対して自分自身のフェイスブックに対するビジョンを提供することの重要性を悟ったようだ。前回も書いたように、2006年の夏、ザッカーバーグはニューヨークでフォーチュン誌のIT担当編集委員で著名なジャーナリストのデビッド・カークパトリックのインタビューを受ける。ザッカーバーグは、カークパトリックがはるかに年長であるにもかかわらず、彼のビジョンを理解して熱烈な賛意を示してくれたことに驚き、シリコンバレーの本社に招いて隅々まで案内した。

 これがきっかけとなってザッカーバーグとカークパトリックの交流が始まり、2007年末にカークパトリックはフルタイムでフェイスブックについての本を書くことを決心し、フォーチュン誌を辞める。カークパトリックは4年間にわたりザッカーバーグを始め主要な関係者だけでも120人という膨大なインタビューを行う。その結果、フェイスブックの歴史とビジョンを余すところなく紹介するノンフィクションが生まれた。これが、日経BP社から出版された『フェイスブック 若き天才の野望』(原題 The Facebook Effect)だ。

タイム誌の表紙をかざったマーク・ザッカーバーグ

 この本の出版とほぼ並行してマーク・ザッカーバーグとフェイスブックの誕生をテーマにした大作映画『ソーシャル・ネットワーク』がデビッド・フィンチャー監督(『セブン』、『ファイト・クラブ』)、アーロン・ソーキン脚本(『ア・フュー・グッドメン』)で制作され、批評家から絶賛された(今年のアカデミー賞では脚色賞、作曲賞、編集賞の3部門で受賞)。こうしたいわゆる伝統メディアからの関心の高まりが追い風となり、2010年12月にはタイム誌恒例の「今年の人」にマーク・ザッカーバーグが選ばれた(写真1)。タイム誌も周到な取材を行っており、マーク・ザッカーバーグがフェイスブックを通して何を目指しているのか、そのビジョンの内容もようやく明らかになってきた。日本でも、映画や書籍、タイムの記事が話題となり、フェイスブックやマーク・ザッカーバーグに注目が集まっている。