「『計画厳守』は破滅への一歩」。帯に刷られた言葉である。元々の計画(プランA)に固執せず、環境変化に応じて計画を適宜修正し、プランBへと進化させていく。これを著者は「適応マネジメント」と呼び、今日にふさわしい「新しいマネジメントのあり方」だと主張する。この主張自体はそれほど新しいとは思えないものの、数々の事例を通して適応の具体策を分かりやすくまとめた点が本書の特長である。

 著者は航空宇宙エンジニアを皮切りに、ベンチャーの創業者や大企業の戦略責任者を経て、経営コンサルタントになっており、自分が関わった数々の事例を失敗も含めて紹介している。米フェイスブック、米アップルなど本誌読者になじみのある企業の例も多い。

 印象に残るのは「戦術はビジネス活動のすべて」「戦術はつねに戦略よりも優位に立つ」という主張である。手持ちの戦術をあれこれ駆使してこそ、適応が可能になるという。長年にわたって「日本企業に戦術はあっても戦略は無い」と言われ続けてきたせいか、トップダウンでまとめた戦略はあっても肝心の「戦術に上層部が時間をかけない企業がほとんど」だと批判するくだりを読むとなにやら安心してしまう。

 しかし、戦術責任者の任命、保有している戦術の洗い出し、個々の戦術の狙いと内容をまとめた文書作成、戦術の開発・モニタリング・評価といった著者が推奨する一連の具体策を実践している日本企業は少ないのではないか。戦術優位といっても戦略や詳細なビジネスプランは必要で、こちらの取り組みも心許ない。

 日本企業が著者の主張通りにやろうとすると「細かい計画を立てるより、やってみるべき」という“反発”が必ず出る。しかし今やビジネスは非常に複雑になっており、「その内容を詳細に紙に書き記すことが、その複雑さを理解し、課題を適切かつ効果的に解決するビジネスモデルの修正につながる」と著者は述べ、経営者と現場が戦術調整について議論するために「この種の文書はあったほうがいい」と指摘する。

 情報システム部門が適応マネジメントを実施するには、戦術の棚卸しが必要になる。組織の規模を問わず、システム部門であれば「予算の確保」「保有システムを少人数で点検」「うるさい利用部門をなだめる」といった戦術を持っているだろう。

PlanB

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デイビッド・コード・マレイ著
花塚 恵訳
東洋経済新報社発行
2310円(税込)