大和ハウス工業には、かつて営業担当者にノートパソコンを貸与したものの、十分に使われなかった苦い経験がある。表現力が乏しく、起動に時間がかかったことなどが原因だった。そこで2011年から、デザイン性に優れ、動画も滑らかに再生できるiPadを導入開始した。

 商談の場に使える専用アプリも用意したが、市販アプリをダウンロードして使うことも許可している。効果的な使い方を社員自身に編み出させるためだ。

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写真●営業担当者が顧客に対してiPadで商談内容を説明する
写真●営業担当者が顧客に対してiPadで商談内容を説明する

 「iPadだと、照明など備品類の膨大なカタログから見たい資料をすぐに取り出して説明してもらえる」(写真)。大和ハウス工業の横浜北支店(横浜市)を家族連れで訪れた渡部茂さん(仮名、39)は笑顔でこう話す。

 2011年10月から順次、事業部門にiPadを本格導入する大和ハウス。住宅販売部門が先行して2011年7月から300台超のiPadを採用するなど、着々と準備を進めている。導入による効果などを見極めたうえで、約5000人いる営業担当者全員への配布も視野に入れている。金田健也営業本部住宅事業推進部事業戦略グループ次長は「業務に必要な『即時性』『携帯性』『表現性』を備えている」とiPadを評価する。

社員が効果的な使い方を考案

 大和ハウスには苦い経験がある。営業担当者にノートパソコンを1人1台貸与し、オフィスでも外回り中も活用できるようにしていた。しかし「表現力が乏しく、起動にも時間がかかったため、営業活動では十分に使われなかった」(畑口起久夫情報システム部グループ長)。

 そこで主に営業用途に使う端末として、デザイン性に優れ、動画も滑らかに再生できるiPadを導入した。ノートパソコンの轍を踏まないようにするために、用途の自由度を高める。例えば住宅販売部門では、内装の写真を数枚選べば、顧客が望むインテリアの傾向を割り出せる専用アプリなどを利用しているが、市販のアプリもダウンロードに制限を設けない方針だ。iPadの積極的な利用を促すとともに、効果的な使い方を社員自身に編み出させるためだ。

 「あらかじめ利用を限ると、社員の自由な発想をそいでしまう」(畑口グループ長)。営業担当者が住宅ローンのシミュレーション機能を備えるアプリをダウンロードし、営業に活用しているケースなども生まれたという。これ以外にも、幾つかの利用方法を試行している。

 一方で、セキュリティー対策を強化するため、端末の利用状況を把握したり、特定機能の利用を制限したりするMDM(モバイルデバイス管理)ソフトの導入を検討している。

 大和ハウスは将来的な構想として、市販のクラウドサービスを活用して、商談の打ち合わせ履歴を営業担当者と顧客が共有できる空間を作っていく計画だ。その閲覧端末としてiPadが効果を発揮することを期待している。