HOYAは2010年から調光レンズなどの高付加価値商品の販促を強化している。紫外線に反応してレンズの色が変化する、紙で伝えきれなかった調光レンズの特徴を表現する明確な目的で2011年から順次、営業担当者にiPadを配布し始めた。

 レンズの種類によって見え方がどのように変わるかなどを仮想体験できるアプリなども独自開発。販売店にもiPad導入を促している。

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 iPadに映し出される眼鏡をかけた女性の像。時間がたつとともに、レンズの色合いが徐々に濃くなっていく。これはHOYAが販売する調光レンズの特徴を紹介するiPadの専用アプリ「SUNTECH(イメージ)」で再現されるワンシーンだ。

 この調光レンズは屋外では紫外線に反応して徐々に色が付き、屋内に入るとその色が消えていく。SUNTECHは、屋内外や季節、性別、レンズの種類などの条件を設定して、レンズの色合いがどう変化するかをシミュレーションする機能を備えている(図1図2)。実際と同じ時間をかけて、変化の様子を顧客に仮想体験してもらうことを目的としている。

図1●営業担当者がiPadを使ってレンズを紹介する
図1●営業担当者がiPadを使ってレンズを紹介する
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図2●HOYAのビフォーアフター
図2●HOYAのビフォーアフター

紙では伝わらない「時間」を体感させる

 HOYAのビジョンケアカンパニーは2011年2月から順次、営業担当者にiPadを配布している。当初iPadを50台配り、2011年6月にiPad 2を50台追加したことで、導入台数は計100台になった。

写真1●HOYAビジョンケアカンパニーの廣野直也日本営業部販促担当、B2Cプロジェクト担当
写真1●HOYAビジョンケアカンパニーの廣野直也日本営業部販促担当、B2Cプロジェクト担当

 導入の目的は、同社が得意とする高付加価値製品の機能を販売店に効果的に伝えることだ。「調光レンズは海外では一般的だが、日本のビジネスシーンではまだ違和感があるのが実情」。iPad導入プロジェクトを率いたHOYAビジョンケアカンパニーの廣野直也日本営業部販促担当、B2Cプロジェクト担当(写真1)は指摘する。「屋内に入ったのになかなか色が元に戻らず、恥ずかしい思いをした」といった顧客からのクレームが来ると、販売を担う眼鏡店も二の足を踏んでしまう。

 低価格業態が台頭し、レンズの価格低下が著しい状況のなか、HOYAは2010年から調光レンズなどの高付加価値商品の販促を強化している。ただ営業担当者がこれまでのように紙のパンフレットで説明するだけでは、販売店に調光レンズの特性を十分に理解してもらえず、当然顧客にも伝わらない。

 これを解決するのがiPadだ。「時間の経過とともに色合いがどう変化するかなどを仮想体験してもらえば、商品への理解が進み、十分に納得してもらったうえで購入につなげることができる」と廣野氏は狙いを語る。

写真2●HOYAビジョンケアカンパニー日本営業部東京第二販売課の柳田佳映氏
写真2●HOYAビジョンケアカンパニー日本営業部東京第二販売課の柳田佳映氏

 実際に眼鏡店への営業活動にiPadを活用している日本営業部東京第二販売課の柳田佳映氏(写真2)もiPad導入の効果を実感している1人だ。「iPadを使うことによって、季節や天候など様々な条件下でのレンズの色の変化を説明できる。『当初のイメージと違う』という顧客からのクレームも減りそう」

店舗のiPad導入も促す

 iPadの導入に当たっては複数のシステム開発会社と組み、SUNTECHを含めた6種類の専用アプリを独自に開発している。例えば、「遠近両用」「中近重視」「室内専用」などレンズの種類によって見え方がどのように変わるかを、iPad上で切り替えて見せるアプリもその1つだ。

 「紙では伝えきれないレンズの特徴を表現したいという明確な目的があった。それにうまく合致する端末がたまたまiPadだった」。廣野氏は当初からiPadありきではなく、まず目的を明確にしていたことがプロジェクトが空振りに終わらなかった秘訣だと強調する。

 HOYAでは販売店にもiPadの購入を促し、営業担当者がアプリのダウンロードを支援する体制を整えている。SUNTECHなど仮想体験型のアプリは、販売店の担当者だけでなく、最終的に商品を購入する顧客に使ってもらってこそ売り上げに結びつくからだ。眼鏡は個人の視力に応じた度数の調整が必要な商品なので、サンプルで見え方を実体験するのが難しい。iPad上で「眼鏡をかけた時の見え方」をリアルに再現できれば、顧客の購買意欲を刺激する効果は大きい。2011年8月時点では約200店が導入しており、年内に500店に拡大する予定。有力取引先にiPadを貸与することも検討中だ。

 ただし現時点では、6種類のアプリのうち2つは、在庫照会など営業担当者の業務を効率化するもので、販売店が接客に使えるのは4種類しかない。年内に5種類以上を追加する予定だが、販売店の導入意欲を刺激するにはまだ十分とはいえない。そこで営業担当者は「イメージビデオを再生してPOP(店頭販促)代わりに使う」といった様々な利用法を提案している。

 販売店が抱える課題をiPadで解決してみせることも効果的だ。前出の柳田氏は、補聴器も併売している販売店に対し、難聴の顧客とのコミュニケーションを円滑に進められるように「市販の手書きアプリを使ってiPadで筆談してはどうか」と提案し、実現に至ったという。販売店に便利さを実感させ、ITの「食わず嫌い」を払拭する取り組みを重ねていく。