回転すしチェーンを運営する活美登利(東京都世田谷区)は本社と全7店舗をiPadのネットワークで結び、調理法の動画配信や店舗の作業状況の把握などに役立てている。刺身を切る作業台や手を洗う洗面台などをズームアップして切り身の厚みや衛生状態などを確認できる。ネット上の「抜き打ち検査」を徹底して味と品質を高める狙いだ。

 また、店頭のオーダー用端末もiPadを配置。専用端末より安いうえに話題性があり、集客面でもプラスに働いているという。

※  ※  ※

 「これ、iPadじゃない?」

 回転すしチェーン「回し寿司 活」の横浜スカイビル店(横浜市)。2人組の女性客は、着席するなりオーダー用の端末を指さした。

 回し寿司 活を運営する活美登利は人気すしチェーン、梅丘寿司の美登利総本店(東京都世田谷区)のグループ会社。2011年7月にオープンした横浜スカイビル店の目玉の1つが「特急レーン」だ。通常の巡回レーンとは別に、顧客が個別にオーダーしたすしを運ぶ特急レーンを設けた。

 そのオーダー用の端末にiPadが使われている(写真1)。カウンターでは2席に1台、テーブル席には1台ずつiPadが配置され、「にぎり」「軍艦」といったジャンルから商品を選ぶ。オーダーを入力すると、レーン内の一角に陣取る板前の手元のiPadに表示される仕組みだ(写真2)。またドリンクやデザートのオーダー内容は、ビールサーバーや冷蔵庫付近に設置されたiPadに表示され、近くにいる販売員が確認して商品を運ぶ。まさに「iPadづくし」だ。

写真1●「回し寿司 活 横浜スカイビル店」では、客席に備えられたiPadで顧客がすしを注文すると、すしが巡回するレーンとは別の「特急レーン」で届けられる(左下の写真)
写真1●「回し寿司 活 横浜スカイビル店」では、客席に備えられたiPadで顧客がすしを注文すると、すしが巡回するレーンとは別の「特急レーン」で届けられる(左下の写真)
写真撮影:北山 宏一
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●オーダー内容を店内のiPadに飛ばす
写真2●オーダー内容を店内のiPadに飛ばす
写真撮影:北山 宏一

 同店のサービス担当・トレーナーを務める中山雄之氏は「他の店ではホールの従業員が顧客からオーダー票を受け取って板前に渡したり、ビールサーバーに走ったりしていた。この店舗では各場所のiPadで各席のオーダーを確認できるので、仕事のスピードが速まった」と効果を語る。iPad導入を担当した目黒事務所の八尾建樹氏は「オーダー端末を導入する回転すしチェーンは他にもあるが、iPadを採用したのは当社が初めて。専用端末より安いうえに話題性があり、集客面でもプラスに働いている」と話す。

全店同時に調理法を伝達

 顧客との接点である店頭だけでなく、バックヤードである厨房でもiPadを活用する。一例が調理法の遠隔教育だ(写真3)。回転すし業態の第1号店で、本店的な位置付けである目黒店には料理長が常駐し、月替わりのおつまみメニューの創作を担当している。このメニューの調理過程を、目黒店に設置したウェブカメラで撮影し、各店舗の厨房のiPadにリアルタイムで動画配信する。

写真3●本社、本店と各店舗を結び映像をやり取りする
写真3●本社、本店と各店舗を結び映像をやり取りする
写真撮影:北山 宏一

 以前は料理長が毎月全店舗を回って、調理法を各店のスタッフに教えていた。「全店を回るのに時間がかかるうえ、店によって味にバラつきが出ることもあった。今後さらに店舗網が拡大した時に手が回り切らなくなる恐れがあった」(八尾氏)。

 そこでiPadによる遠隔教育でまずメニューを一通り全店に説明する。その後で料理長が店舗を回って味をチェックする手順に変えた。

 このため導入したのがセキュリティハウス・センター(京都市)が提供するクラウドサービス「i-NEXT」だ。目黒店の厨房に設置したウェブカメラで撮影した映像を、外部のサーバー経由で各店舗のiPadに配信する。主に防犯用途で提供されていたサービスに土屋秀仁社長が目を付けた。「初期投資が30万~40万円、月々のランニングコストは数万円で利用できている」と八尾氏は話す。

 iPadは各店舗の厨房の状況を本社や目黒店に伝える役割も果たす。料理長や営業の責任者が手元のiPadを操作すると、店舗のウェブカメラが刺身を切る作業台や手を洗う洗面台など、指定した場所を撮影して映像データを送る。ズームアップ操作もできるため、「従業員が手洗いを徹底しているか」はもちろん、「白身の魚はすし飯となじみが良い適切な厚さに切られているか」などまで確認できる。ネット上の「抜き打ち検査」を徹底して味と品質を高めていく。