ビジネスの取り引きでは、相手が継続的に「やる気」になるようなことを常に考える必要があります。自分ですべてやろうとすると、相手に自分が当事者であるという意識が薄れてしまうかもしれません。ブランク氏は、それを15年前の経験で身をもって知ったと言います。(ITpro)

 相互の関係の一方だけが情熱的であれば、それは「報われない愛」です。私はそのことを、辛い思いをして学びました。

ダートマス大学フットボール・チーム

 ロケット・サイエンスを廃業した後、私は休養をとり、ロケット・サイエンスに多額の投資をしてくれたベンチャー・キャピタリスト(VC)のコンサルタントをしていました。そのVCは、シアトルにあるセールス・オートメーションのパイオニアであるオニックス・ソフトウエアを一日訪問することを勧めてくれました。

 オニックスでの最初のミーティングで、マネジメント・チームが会議室に集まり出したので戸惑いました。同社のセールス担当副社長の身長は190センチメートルあり、胴周りも同じくらいありました。次に入ってきた二人の経営幹部の身長も195センチメートルくらいあり、ドアを通るときに横向きにならないといけないほどでした。彼らは全員、ナイトクラブの用心棒になれるようでした。

 今も覚えていますが、私はそのとき、CEOは他の役員のように大きいことはあり得ないだろう、きっと156センチメートルくらいだろうと思っていました。これは間違いでした。オニックスCEOのブレント・フレイ氏は204センチメートルで、電話帳を半分に引き裂くこともできそうに見えました。

 私は冗談で、「ソフトウエア事業がうまくいかなくても、良いフットボール・チームができますね」と言いました。ブレントはすぐに「いえ、私たちはもう実行済みです。私たちは、ダートマス大学フットボール・チームでディフェンスのラインマンだった3人です」と言うではないですか。

 しかし、その日のサプライズは、それだけではありませんでした。私はオニックスのコンサルタントになるのかと思っていたのですが、同社は私をマーケティング担当副社長に雇おうとしていたのです。その日の終わりには、このチームは聡明で積極的で、CEOのブレント・フレイ氏は素晴らしい人物で、マイクロソフトが優勢な市場であるにもかかわらず、オニックスは成功すると考えるようになりました。予期しない新しい仕事の申し出でしたが、帰りの飛行機中でずっと考えた後、私たち家族がシアトルに引っ越すには、現在の生活に根を深く下ろし過ぎているという結論に達しました。

 結論はこのとおりでしたが、その日一日で、エピファニーを創業するときに私の考えの礎になった、セールス・オートーションに関して多くを学びました。

私は最高の顧客を知っている

 それから1年後に、私と共同創業者はエピファニーを創業しました。他のスタートアップ企業が、われ先にと、大企業のすべての部門の自動化を推し進めていた時期でした。SAPは製造部門、オラクル社は財務部門、シーベルト社とオニックス社は販売部門などをターゲットにしていました。

 そこで、エピファニーとしては当初、企業のマーケティング部門の自動化しようと考えました。初期の想定顧客に基づき、オニックスに私たちのチャネル・パートナーになってもらう、という素晴らしい仮説をたてました。私は「もしオニックスが既に顧客の販売部門に販売しているのなら、エピファニーの製品を、オニックスの顧客のマーケティング部門にも、簡単に販売してもらえるのではないか」と考えたのです。

 そこで私はオニックスの友人に電話し、シアトルに飛んで行きました。彼らは急成長しており、自分たちの販売活動で手一杯でしたが、私の話を親切にも聞いてくれました。私は、技術的に2社の製品がどのように統合できるのか、どうして両製品を販売することで増収できるのか、両社にとってどうして良い取引なのかを説明しました。

 彼らから多くの反対意見が出ましたが、私は“セールス・チャーム”(魔法のような販売力)を発揮し、会議の終わりには、両社の製品を統合した結果がどうなるかを見せることで、オニックスを「説き伏せ」ました。私は彼らに負担をかけないようにと考え、「エピファニーが無料で両社の製品を統合し、その結果を見ればあなたたちは必ず気に入り、我が社の製品を同時に売りたくなるだろう」と提案しました。私は、エピファニーのエンジニアがすぐに作業に入れるように、オニックスのソフトウエア・コードをもらって帰りました。

 実はそれは良くない考えでした。しかし、そのとき、私にはそれが分かりませんでした。