図1 安徽省の位置
図1 安徽省の位置

 今回は中国でのオープンソースソフトウエア(OSS)の浸透状況を見ていきましょう。上海から新幹線で2時間ほどの南京から、さらに車で1時間ほどの安徽省(省は日本で言う県に相当)にある河海大学を訪ねました。遠いようですが、中国の広さからすれば中層部(図1)。このくらいの場所まで浸透して初めて、中国でも一般化しつつあるといえます。なぜなら中国では他省からの大学入学には人数制限があり、他省で労働するにも許可が必要で、人の移動があまりないためです。そのため、重点発展区である北京や上海はダントツに発展しますが、他省は随分遅れます。

 河海大学を訪問していきなり圧倒されたのが、先生達の熱心さ。矢継ぎ早に「日本で今流行っている技術は何か?」「日本ではどのような教育方法を取っているのか?」などの質問を受け、どちらが話を聞きにきたのか分からなくなる状況でした。

 訪問の狙いは、今年開始した「AndroidやiPhoneに関するカリキュラム」の授業です(写真1)。例題をPCに打ち込み、重要ポイントはノートに書き写す。ビデオカメラを持ち込んで撮影している学生までいます。先生や学生の最新技術をどん欲に吸収しようとするハングリーさに圧倒されました。

写真1 河北大学の授業風景など
写真1 河北大学の授業風景など
左上が河北大学の校門、右上が授業風景、左下がカリキュラムの内容抜粋、右下が中尾貴光氏。

 このような実践的カリキュラムは、“今流行の技術”といえる内容がずらりと並んでいます。特筆すべきは、インターンが4年次の必須単位となっているところで、学校の紹介する企業に半年間在籍し、現場で実際の開発にかかわり、その成果や経験が単位となります。

 前回紹介のベトナムではLuvina Software社などが独自にOSSのカリキュラムを作って学生を教育していましたが、中国では産学連携で教育に取り組んでいます。すなわち、OSSの土壌が企業から大学にまで広がっている状態なのです。この状態になれば、肌感覚でOSSの考え方が理解できる“OSSネイティブ”なエンジニアが育ちます。企業内では得にくい“精神的な満足感”を求める活動をし始め、自らOSSにかかわっていくようになります。

 インターンを受け入れる企業側の1つが、安徽開源軟件有限公司(略称: Anhui OSS)。日本人の社長である中尾貴光氏は、日本のターボリナックスで働き、OSSの知見などを得て中国で起業したそうです。「OSSは浸透してきているが、まだ自ら動き出すフェーズではない。ただし、コミュニティーに興味を持ち始めているようなので、もうすぐブレイクするだろう」(中尾氏)とのこと。実際に、今年6月29日から北京でOSS全国大会が開催される予定で、OSSの土壌が整いつつある中国の中層部まで飛び火してくるのは、時間の問題のようです。

レポーター:今村のりつな
SIProp.org 代表/OESF CTO
PC系から新時代に移行するためのエコシステムを台湾の政府系研究機関で開発中。