世界各国が関心を持ち、日本だけが持たない。本書はその一例である。2009年に出版された原著『START-UP NATION』(起業国家)は米国で評判をとり、各国語に訳され、シンガポールとインドでベストセラーになり、中国と韓国で増刷を重ねてきた。しかし出版後2年たっても日本語版の話は進まず、著者の一人は「経済大国でハイテク先進国の日本だから、もっと反応があると思っていた」と不思議がった。

 巻頭で著者は「テーマはイノベーションと起業家精神であり、小国イスラエルがどのようにこの両方を自らの財産にしたのかを語る」と記している。残念ながら日本人はイノベーションにも起業にもイスラエルにも関心が薄かったらしく、3年を費やしようやく邦訳が出た。起業するかどうかはさておき、何らかの新たなプロジェクトに取り組み、必ず成功させようと考えている人は本書から良き刺激を得られるはずだ。

 なかでも徴兵制と予備役の仕組みを利用した人材育成の説明には圧倒される。「若者は大学入学前に兵役を通じてリーダーシップ、チームワーク、ミッション達成のための技量や経験を教え込まれる」。優秀な高校生は選抜され、軍人の訓練と並行してテクノロジーの訓練を受ける。こうした「大きな頭で考える」人材が除隊後にハイテク企業を興していく。兵役は若者に「自分よりも大きな存在に奉仕する価値」を教える。目的意識が強烈な点もイスラエル人の強みという。

 邦題に掲げられたIT企業3社は実のところ本書にあまり出てこないが、イスラエルで民間最大雇用者になっているインテルの事例は随所に登場する。1991年に湾岸戦争が勃発、イラクからミサイルが撃ち込まれるなか、インテル・イスラエルの責任者は「政府の命令に反して」空襲があってもプロセッサを造り続けると決めた。その大きな目的は、戦時下でもイスラエル企業は操業できると世界各国に示し、イスラエルのハイテク企業各社への投資を続行してもらうことにあった。出勤するかどうかの判断を従業員に任せたところ「攻撃が激しくなるほど、出勤率は増加した」。

 若いときに重責を負わせて鍛え、目的意識を高めさせることは重要である。徴兵制も予備役も無い日本でどんなやり方が考えられるだろうか。

アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?

アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?
ダン・セノール/シャウル・シンゲル著
宮本 喜一訳
ダイヤモンド社発行
2100円(税込)