社内の一部からは、ビジネスツールを無償で提供し、人もつぎ込み続けることを案じる声も聞かれた。だが、生川は「現場を知らない人の言うことです」と一蹴して活動を続ける。生川はまた、医療の問題が新たな課題だと気付いた。石巻市では診療所の8割が全半壊し、土地を離れる医師も出てきた。それに伴って看護師やケアマネージャーが去っていくことで地域医療が崩壊を始めていたのだ。そこで、石巻に診療所を作るべく動き出した。=文中敬称略

【前回より続く】

奇跡の連続

 ゼロからの診療所作りは、土地探しから始まる。地図を見て場所に目星を付け、タクシーを借り切って実際に訪れて目で確かめ、それから持ち主を捜し出す。その人を知る人にリサーチし、人物像を把握してから挨拶に行くが、突然の来訪を怪訝(けげん)がられた。

 しかし、ここで諦めなかったことが、生川の言う「奇跡の連続」を生み出す。

 今度は社内で人を探した。

「石巻出身の人を知らないか」

 社員17万人を抱える富士通グループ内には、果たして石巻出身者がいた。しかも、狙いを付けた土地のすぐ近くに、その社員の親友の父親が住んでいるという。

 土地が決まれば、次は建物だ。無償で建築を、とハウスメーカーを当たるが、渋い返事しか得られない。藁(わら)にもすがる思いで、プレハブメーカーのところへ、オタクがエクセルで作った診療所の設計図を持ち込んだ。それを見た1級建築士は、「すごいな」と言った後、一瞬口ごもり、「こんなエクセルの精緻な設計図、初めて見ました」と、そこまで本気なのであればやりましょうと言ってくれた。

「これは自分たちの仕事じゃない、と決めてしまわずに、何でもやる。そうやって人を巻き込む。僕は、ソリューションを手がけるうちの会社には財産があると思っています。それは、日々、新しいことを提案する力です」