レビューでは適切な観点を設定することが重要だが、適切な観点に絞り込む自信がないという場合もあるだろう。そこで、「表記に関する指摘は挙げない」という単純なルールを設定するだけで、レビュー結果がどう変わるのかを検証した。レビューセミナーの演習として準備に時間を掛けずに実施したこともあり、効果検証の厳密さには欠けるが、興味深い結果が出たのでぜひご覧いただきたい。

 レビュー対象として、二つのWebシステムの要求仕様書を用意した(どちらも表紙を除いてA4判4ページほど)。一つは「テニスコート予約システム」、もう一つは「勉強会申し込みシステム」の要求仕様書である。どちらの仕様書にも同じように、誤字脱字に加えて、重大な欠陥をいくつか意図的に埋め込んでおいた。

 重大な欠陥とは、テニスコート予約システムでは、「テニスコートの管理者はカギを取りに来た社員が予約者本人であることを確認できない」「社員がいったん予約するとそれをキャンセルする方法がない」「『不正な日付』という表現があるが、それを定義していない」──など。勉強会申し込みシステムでは、「参加人数の上限を超えたら申し込みの受け付けを停止する、という記述がない」「申し込み時のID・パスワードの認証方法について記述がない」「参加申込者リストの画面に表示する情報が定義されていない」といった具合である。

 このようにして、2回のレビューを実施した。レビューアーは2回とも同じメンバーで、セミナーに参加したー般のITエンジニア32人が務めた。

誤字脱字を無視すれば、重大な指摘に注力できる

 1回目のレビューでは、全員にテニスコート予約システムの仕様書を配布し、「レビューしてください」とだけ言って、各自で対象を読み問題を指摘してもらった。レビューは、全員が十分に指摘できたと判断するまで続け、20分後に打ち切った。

 一方、2回目のレビューは、レビューのコスト効果を説明した上で実施した。勉強会申し込みシステムの仕様書を配布し、冒頭で「表記に関する指摘の多くはテスト工程で見つけたとしても修正コストがほとんど膨らまない」ということを伝え、表記に関する指摘を挙げないルールを設けた。レビューは1回目と同じように20分間にわたり、全員に個別レビューをしてもらった。

図1●単純な観点絞り込みの検証結果
図1●単純な観点絞り込みの検証結果
「表記に関する指摘は挙げない」という単純な観点絞り込みの効果を検証した。Webシステムの要求仕様書を対象に検証を実施したところ、表記に関する指摘の割合が17.7(=24.4-6.7)ポイント減り、表記以外の重大な指摘に注力できることが分かった
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 その結果を図1に示した。1回目より2回目の方が表記に関する指摘が減っていることが確認できた(24.4%が6.7%に減った)。1回目と2回目でレビュー対象の仕様書が異なるので単純には比較できないし、表記以外の指摘が全て重大な指摘とは限らない。だが、セミナーの講師を務めた筆者の実感では、2回目のほうが目に見えてレビューアーは重大な指摘に集中していた。定量的な効果検証は改めて実施したいが、効果は大きいと考えている。