第7回からは、サプライチェーンにおけるBCMの具体的な進め方について述べたい。

 2011年の東日本大震災やタイ水害以降、サプライチェーンのBCM(事業継続マネジメント)に対する関心が急激に高まっている。その理由の1つは、自社のBCM構築が進展するにつれ、取り組みの対象分野が自社以外にも拡大してきたことだろう。サプライチェーン全体の事業継続能力を高める取り組みとは本来、サプライヤーの事業継続能力を正しく評価し能力の向上を促すものでなければならない。

 しかしながら、形式的なチェックにとどまることにより、リスクの所在をブラックボックス化させてしまっているケースもあるようだ。また、本来クライアント側が取るべきリスクを一方的にサプライヤー側に転嫁することでサプライヤーの離反や疲弊を招いたり、クライアントから具体的な要求や被害想定が出ないことを理由に多くのサプライヤーがBCMに取り組まない、などの問題も発生している。

 本質的にBCMは自己責任の取り組みである。個々のサプライヤーが必要性に気づき、供給者としての責任を果たす取り組みが連鎖することで、サプライチェーンの事業継続能力の向上につながるという考え方を大前提に持たねばならない。さもなければ、お互いに寄りかかり、依存し合い、結果として有事には共倒れになってしまう。このような取り組みならば何もやらない方がましだろう。発注側も受注側もウイン-ウインの関係になることがサプライチェーンのBCMの正しい在り方である。

調達部門に残された東日本大震災の教訓とは

 前回説明したとおり、2011年の東日本大震災においては、サプライヤーの被災により供給が中断し、多くの企業が自らの製品・サービスを提供がきなくなる事態に陥った。これらの被害の多くは海外を含む被災地以外の場所で発生し、企業活動は大混乱に陥った。

 その時に調達部門が取った対応を分析してみると、様々な気づきが得られる。

図1●東日本大震災における調達部門の動き
図1●東日本大震災における調達部門の動き
出典:富士通総研
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 被災直後から調達部門はサプライヤー被害状況の把握に取り掛かった。テレビ報道は被災地の大変な状況を延々と伝えている。「被災地にあるサプライヤーには被害が発生したのだろうか」「発生したのであれば再開にはどの程度の時間がかかるのか」「こちら(クライアント)から何か支援できることはないか」──。

 大変な人数を投入し、連絡を取ろうとするが、全く連絡がつかない状況が何日も続く。そうしているうちに部材の在庫が尽きはじめ、自社製品の出荷への影響を懸念する調達部門は代替調達の検討を開始する。

 代替先が簡単に見つかればよいが、日頃から取引が無ければいきなり調達できるわけもなく、スペックはもちろん品質の確認、顧客の了解の取り付け、納期・価格の交渉と大混乱の中で煩雑な調整を終え、ようやく調達にこぎつける。

 ただし、同一スペックで調達できる代替先があればよいが、それが見つからない場合にはどうしようもない。多くの企業では、他社部品に自社製品を合わせる設計変更により対応した。同じスペックの代替品を探すのでなく自社製品を代替品に合わせて対応したのである。

 これらの対応の結果は、発注者側では納期遅れによる多額の機会損失、強引な対応を行わざるをえなかったことによる調達のコストアップにつながり、サプライヤー側では供給ストップによる売り上げの減少を招いた。さらに、クライアント側が設計変更して調達先を切り替えたケースでは、サプライヤーが供給を復旧再開させても重要顧客を失ってしまう結果につながった。

 事前に有事の連絡方法を準備していなかったこと、被災時の代替生産方法を自ら検討していなかったことをサプライヤーが悔やんでも後の祭りである。

 東日本大震災だけでなくタイの水害においても、似たような状況はあちこちで起きていた。こうした状況をいかに回避するかを考えることが、まさにサプライチェーンのBCMである。