著者に聞く

 「立ち会議」などユニークなマネジメント手法を編み出してきた著者が、初めて「課長」とその予備軍に向けてメッセージを発信した。自身の課長時代の体験を基に、心構えから具体的なマネジメントスキルにまで踏み込んだ。

(聞き手は小林 暢子=日経情報ストラテジー)

課長本を書いた理由は?

酒巻 久氏酒巻 久(さかまき・ひさし)氏
キヤノン電子代表取締役社長。1967年キヤノンに入社し、常務取締役生産本部長を務めた後、1999年より現職。6年で売上高経常利益率10%超の高収益企業に成長させた
写真撮影:萩原 均

 これまでの著書は、経営者向けに書いたものが多かったが、企業の将来を担っていく人材に自分の経験を伝えたいと思うようになった。

 20代後半で課長になり、人の管理、数字の読み方、投資の仕方などを徹底的に勉強した。その後部長になり、取締役になったが、振り返ってみると課長時代に蓄えたことが、自分のマネジメントスタイルのほとんど全てになっている。それ以降、ごまかしはうまくなったが本質は変わっていない(笑)。

 課長時代に10人の部下を完全に掌握できるようになれば、部長になった時に10人の課長を掌握できる。さらにトップになったら10人の役員を掌握し、会社全体をマネジメントできる。

部下へのスパルタ指導ぶりが描かれている。最近主流のコーチングとは真逆だ。

 部下には「黙って言うこと聞け」「3年間口答えするな」と申し渡した。その分徹底的に指導した。教えたのは仕事のハウツーではなく考え方。設計部門にいたので、例えば温度によって部品のサイズが変わるという課題を解決する場合も、「こういうデータを集めて考えろ」と言う。解決策ではなく、本人が考えて解決するための枠組みを教えた。

 そうしたやり方が実際に成果につながった。当時のキヤノンの昇進試験では、合格率が3割程度だったのが、僕の部下は7割合格していた。試験の数カ月前から、新聞を読んで世の中の動きを表すキーワードを抽出し、自分の仕事とどう結び付くかをレポートさせた。こうした習慣を通じて考え方の軸を作り、優れたマネジャーに成長した部下も多い。

挑戦的な仕事に取り組ませることが大事と説くが、達成できなかった場合はどうするか。

 高い目標に挑戦すれば当然成功確率は下がる。ただし納期遅れなどが生じては、会社として困る。だから自分がセーフティーネットになれるよう、いざと言うときは代替できる準備を常にしていた。プレーイングマネジャーだったわけだ。

 そのためには課長はよく勉強して、部下全員の担当分野を全てキャッチアップしておかなくてはいけない。専門特化を言い訳に部下に任せきりにするのは、手抜き以外のなにものでもない。

多忙な社長業のなか、本を書く時間をどう捻出しているのか。

 原稿は携帯電話で書いている。僕の携帯では1つのファイルで6000文字まで書けるので、仕事の合間や出張の移動時間、家で本を読んだりテレビを見たりした時に考えたことをその場で入力していく。今回の本もそうやって貯めた文章をまとめた。

リーダーにとって大切なことは、すべて課長時代に学べる

リーダーにとって大切なことは、すべて課長時代に学べる
酒巻 久著
朝日新聞出版発行
1365円(税込)