ワシントンDCの空の玄関口、ダレス国際空港。市内から車で1時間ほどの場所にあり、現在、市内と空港を結ぶ「Dulles Metrorail」(鉄道)の建設が進んでいる。当社オフィスは中間の「Tysons Corner」と呼ぶバージニア州北部の街にあり、目抜き通りに沿って高架路線がまさに建設中。街の風景が大きく変わりつつある。

通信・IT企業が密集するDC、国防関連の需要拡大で活気

 バージニア州北部には米国の通信・IT関連企業が多く、数百社に上ると言われている。DCに近く、米国連邦政府、特に国防総省など国防関連機関と取引する企業が多く集まるからだ。日本でなじみは薄いかもしれないが、当社近くにはノースロップ・グラマンやジェネラル・ダイナミクス、SAICといった国防関連大手が軒並み本社を構える。

 米国連邦政府は2001年の同時多発テロ以降、国防予算を毎年増やしている(2011年度は2001年度の2倍以上の7080億ドル)。これに伴い、軍事設備の無人化や自動化、サイバーセキュリティ対策などの需要が高まっているのだろう。この地域にはIT関連企業も集まる。米国の主要通信事業者も米軍が世界に展開する通信インフラを提供するため、国防総省向けの営業事務所を置いている。最近では中近東向けだけでなく、沖縄から海兵隊が移転するグアム向け通信回線の需要も高いようだ。

テレコム専門弁護士の95%が集結

 DCではホワイトハウス北側にオフィス街が広がるが、中心部は東西に走る「K Street」沿い。弁護士事務所やシンクタンクが集まる通りとして有名だ。「FCCがユニバーサルサービス基金の改革案を出したが、コメントを提出するなら協力するよ」---。知り合いの弁護士からは、当社に関連しそうな出来事があると折に触れて営業メールが届く。日本では企業が担当弁護士を簡単に変えないのが通例だが、彼によると「米国では会社ではなく人が仕事を決める。顧客の担当者が転職すれば後任者が連れてきた懇意の弁護士に変わることがよくある」そうだ。米国ではただでさえ転職が多いので、顧客のつなぎ止めは大変らしい。

 DCには全米のテレコム専門弁護士の95%が集まっているという。通信・IT関連の法律や政策を専門にする弁護士やコンサルタント、政府関係者などで構成する「Federal Communications Bar Association」(FCBA)という団体もある。毎年12月にはFCC委員長主催のパーティーが開かれ、行政や企業、FCBAのメンバーなどの参加者数百人が委員長のジョークを交えたスピーチを聞くのが伝統だそうだ。ルールを作る行政と従う企業、そして両社の間で活動する弁護士。それぞれが利益を求めて意見を主張しながらも、全体としてはより良い社会のルールを作るために対等の立場で協力するスタイルに米国らしさを感じる。

塩見 京太(しおみ きょうた)
KDDIアメリカ バージニア拠点長。日本では電気通信分野の国際標準化業務や外資系企業の営業などを担当し、2009年4月から現職。米国赴任は今回が2度目で、1995年から1998年の3年間、ニュージャージー州で勤務経験がある。赴任前はニュージャージーを第2の故郷と思っていたが、南東部の南北戦争の史跡を巡るうちに、今ではすっかり南軍びいきになってしまった。