米国ではアップルが世界最大の企業に躍進し、フェイスブックが800億ドルの時価総額をつけて上場した。近年の日本の携帯電話市場では、韓国サムスン電子のAndroid搭載スマートフォンが圧倒的な人気を博している。その一方で日本の既存の大企業は化石と化して身動きがとれずにいる。この失敗はどこで始まったのだろうか。

 第二次世界大戦で日本軍は初戦こそ連戦連勝を重ねたが、突然雪崩を打つように劣勢に追い込まれていった。『失敗の本質』(野中郁次郎他著・中公文庫)は、その原因が単に「物量」の差だけではなく拙劣な作戦指揮にも多大な責任があることを明らかにした戦史研究の名著だ。本書は「失敗の本質」で得られた教訓をベースに、現代の日本企業の欠陥を分析している。日本軍の失敗と現代日本企業の失敗の間の類似点は驚くほどだ。「型の伝承にこだわり本質を見失う」「イノベーションを封殺する」「失敗をうやむやにする」「トップが現場に出ない」「精神論に頼る」「集団の空気に流される」──。いちいちうなずけることばかりだ。

 中でも重要なのは「不適切な人事は組織の敗北につながる」という指摘だろう。米軍では成果で人事考課を行った。成果が上がらなければ最高幹部といえども即座に任務を解かれた。ところが日本軍ではいくら惨憺たる失敗を繰り返しても誰も責任を問われなかった。日本軍では「戦闘結果よりもリーダーの意図や、やる気が評価された」のだという。結果に責任を問われないのであれば声高に「やる気」だけをアピールしているのが出世の近道となる。「向こう傷は問わない」などというのは一見勇ましいが実は危険な考え方だ。本書は「『無謀・無能でも大言壮語し、やる気を見せるなら罪に問わない』というメッセージを(人事として)関係者全員に発信するなら組織内に無責任な失敗者が続出するのは当然」と警告する。時間があればぜひ「失敗の本質」原著にも目を通していただきたい。一読、粛然とさせられるものがある。

滑川 海彦
千葉県生まれ。東京大学法学部卒業後、東京都庁勤務を経てIT評論家、翻訳者。TechCrunch 日本版(http://jp. techcrunch.com/)を翻訳中。
「超」入門 失敗の本質

「超」入門 失敗の本質
鈴木 博毅著
ダイヤモンド社発行
1575円(税込)