写真●菅野彰人・取締役システム本部長
写真●菅野彰人・取締役システム本部長
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 インターネットの宿泊予約サイト「一休.com」を運営する一休は2012年に、従来使っていたソフトウエア製品をオープンソース・ソフトウエアに切り替えた。同社は高級ホテルや旅館を軸に、ビジネスホテルなどの取り扱い数が増加。レストランや贈答サービスの業務も拡大中だ。

 そこで負荷分散のため、システムの一部にオープンソースを導入。「オープンソースなら今後、顧客ベースや宿泊施設が増えたり、業務を拡大して別の処理を載せたりするにも十分に対応可能な状態にできる」と菅野彰人・取締役システム本部長は狙いを話す。導入作業は4カ月ほどの準備期間を経て、宿泊予約の書き入れ時である夏期前に終えた。

 オープンソースを導入した背景は2つある。1つは将来の業務拡大に備えたランニングコストの削減。もう1つは技術者のスキル向上も視野に入れ、これまでやってこなかったことにチャレンジしていくためだ。いわば将来の人材育成にも布石を打った格好だ。

 菅野氏は、同社のシステム部門の正社員13人のほか、常駐している協力会社のシステムエンジニアらをまとめる。もともと1993年に大手銀行のシステム子会社に就職して関連のカード会社に常駐。汎用機を扱う仕事に携わっていた。99年に一休が開始したオークションサイトのシステム開発を担った友人から創業者の森正文社長に紹介されて一緒に仕事を始め、事実上ゼロから「一休.com」の立ち上げを担った。

 汎用機では分厚いマニュアルを読んで勉強したり、先輩からノウハウを得たりしていた。だが宿泊サイトの立ち上げは、オークションサイトを参考にネットで情報を集めて勉強しながら作り上げたという。最初はシンプルなつくりだったが、顧客や宿泊施設の要望などに応えながら作り上げてきた。今でこそクラウド技術を活用して規模の小さなサービスやベータ版で業務を始め、次第に拡大していく手法が知られる。だが当時はどのネット企業もそんな感じだった。

 実は菅野氏には一休を一度退職した経験がある。宿泊予約サイトを立ち上げた直後の2000年末にシステム会社に転職した。サイトを構築する仕事が楽しく、「技術に特化してバリバリやっている人たちの中に入っていくのがいいと思った」と振り返る。Javaなどの技術を身に付けながら、ベンチャー企業として東証マザーズ上場も果たした。「自分の中で技術的な柱ができ、勘違いかもしれないが当時は自信になった」と笑う。

 ところが5年後、一休にいたシステムチームの中国人リーダーが帰国のため退職。ひと通りの経験をしたタイミングで再び菅野氏に声がかかり、復帰を決めた。戻ってみると扱うプログラミング言語などが違っても環境は変わらず安心したという。2008年には取締役に就任した。

 とはいえ1970年生まれの菅野氏を除き、チームの技術者は20代が中心。若手はすぐ「あれをやってみよう、これやってみよう」と動き出す。周囲に起業して成功した者も少なくないためか、恐れを知らないと感じることもあった。最近までは若手に対して予防線を張って歯止め役となったり、社内の調整役を担ったりするシーンが多かったという。

 だが今では逆に「もっといろいろチャレンジしていこう」と声を上げている。ウェブの技術は日進月歩。若手がどんどん新しい技術を身に付ければ、それをどう活かすかが会社にとっては課題。特に最近は技術の根幹部分を除き、何が今後の主流になると予想するかそれぞれ技術者によって異なる場合もある。

 同社は2005年に東京証券取引所マザーズ市場に上場し、2007年に東証一部に上場。上場によって会社の信用が高まった半面、段取りをしっかり守らなければいけないことも増えた。その上で、革新性を維持して挑戦もしていなければならない。菅野氏は「さまざまな情報収集から実際に使い始めるまでメンバーに動いてもらいながら見定め、舵を切れるようにしたい」と話している。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・簡潔さを心がけている。自分でモノを作ったりシステムをやってきたので、どうしても冗長になりがち。社長に対してだけではないが、できるだけ簡略化して簡潔に話す。極論を言えば結論と理由を言えればいい。なかなか難しいと実感はしている。

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・必要に応じて情報を探しているが、日本経済新聞はスマートフォンを使って電車内で読む。雑誌は「WEB+DB PRESS」(技術評論社)。ウェブサイトはITProや@IT(アットマーク・アイティ)、翔泳社の「コードジン(CodeZine)」。ネット企業が公表している技術的な取り組みにも目を通す。
◆ストレス解消法
・オートバイが好きで、時間があれば山に出かけて温泉に入り何も考えずにいるのが良いリフレッシュに。宿泊予約サイトもたまに使って(笑)
◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・特にはない。システムエンジニアに常駐してもらっている協力会社やインフラ系のベンダーは、サービスやビジネスを分かってすぐ対応してもらうメリットがあるのでつきあいは長い。今はどこも人材集めに苦労し、優秀な人材がなかなか集まりにくい。ただ、システムの会社ではないのでコミュニケーション能力は重視している。