ITの重要性が増す一方で、情報システム構築プロジェクトの失敗が後を絶たない。ビジネスプロセス・アーキテクト協会(BPA-P協会)はプロジェクトの成功確率を上げるヒントを得るため、「プロジェクトのつぶやき」研究チームを立ち上げた。本連載は研究チームによる成果の一端を、エピソード形式で紹介している。

 前回(自前でシステムを作れない情報システム部門)では、システムを作るスキルを持たない情報システム部門の例を紹介した。今回は、ある地域における代表的な運輸会社であるA社の例を紹介しよう(登場人物はすべて仮名)。


 A社は三代続くオーナー企業で従業員は600人。毎期それなりの利益を出している。12人の情報システム部員は平均年齢が50歳近く。オフコン時代に開発したシステムを焼き直して、現在も使っている。パッケージを除くシステム開発は、長年の付き合いがあるベンダーX社が担当している。

 A社では昨年、社長が交代した。新たに就いたのは、創業者の孫の佐藤氏である。大学卒業後、大手商社に勤務していたが、5年前にA社に入社した。佐藤社長は、現行のシステムが提供する経営情報の鮮度や精度に不満があり、ベンダー1社への丸投げ体質も問題視している。

シーン1:A社社長室
「ともかく最新のシステムを導入してくれ」

 佐藤社長は、石田情報システム部長を呼び出した。石田部長はA社に入社以来、システム部門一筋。開発はX社に依存している。

佐藤社長:石田部長、今どきの企業はやはり情報システムが重要だ。当社のシステムはもうずいぶん長く使っているようだな。

石田部長:確かに長年使い続けていますが、特に問題は発生していません。

佐藤社長:そうは思わないな。確かにシステムトラブルは発生していないが、「こんな経営情報を欲しい」と要求しても、今のシステムでは対応できない。この状況を放置しておくわけにはいかない。

石田部長:はい…

佐藤社長:今はシステムの時代だ。最新のシステムがないと企業はやっていけない。同業他社も最新のパッケージソフトを導入しているらしいじゃないか。

石田部長:お言葉ですが、わが社には独自のルールがいろいろとあります。パッケージはあまり向かないと思うのですが…

佐藤社長:そんな態度だから、いつまでたってもシステムで新しいことができないのではないか。ともかく最新のシステムを導入してくれ。それも一流のシステムだ! 同業者からは、Q社のパッケージがいいと聞いている。すぐ検討してほしい。

佐藤社長のホンネ
やっと新しいことに対応できるシステムが作れそうだ。

石田部長:わかりました。当社のシステムを長年手がけてきた実績のあるX社を含めた形で、ベンダーを選定するということでよろしいでしょうか?

佐藤社長:それでかまわない。すぐ進めてくれ。

石田部長のホンネ
何とかX社に決まってほしいものだ…