図1●VSN社内の「Chatter」上に流れた“歩く会”の呼びかけ
図1●VSN社内の「Chatter」上に流れた“歩く会”の呼びかけ
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 7月半ばのある水曜日、夜7時ころ。東京・田町にあるVSNの本社オフィスに、約60人の社員が集結した。その目的は、「Win4Youth 2012」に準じた“歩く会”に参加するためだった。

 Win4Youth 2012とは、VSN属するアデコグループが推進している社会貢献活動である。従業員が歩いた距離に応じて寄付額を積み上げ、さまざまな国の慈善団体に寄付するという取り組みだ。

写真1●中央がChatterの導入を主導したVSNの川崎健一郎代表取締役社長、左は伊佐俊紀情報システム部部長、右が西村正一経営企画部部長
写真1●中央がChatterの導入を主導したVSNの川崎健一郎代表取締役社長、左は伊佐俊紀 情報システム部 部長、右が西村正一 経営企画部 部長
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 60人がこの“歩く会”の存在を知ったのは、米Salesforce.comの社内利用向けソーシャルメディアサービス「Chatter(チャター)」。「オフィス最寄りの田町駅ではなく、二駅離れた新橋駅まで歩いて、寄付金を作ろう。併せて社員同士で交流しよう」。画面のタイムライン上を流れてきたこんな主旨の発言を読んで(図1)、「それならば私も」と集まったのだった。

 本社オフィスに在籍する社員は約130人。その半分近くにあたる数の社員がChatterでの呼びかけに応じたことになる。VSNの経営トップである川崎健一郎代表取締役社長は、「この集まり具合には、正直驚いた。社内向けソーシャルメディアが持つ情報伝達の威力をあらためて認識した」と語る(写真1)。

導入後1年で約3割の社員がChatterで発言

図2●VSNで使っているChatterの画面例
図2●VSNで使っているChatterの画面例
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 エンジニアの特定派遣を主力事業とするVSNは、全社的にChatterの活用を進めている(図2)。川崎社長自らが先導して、2011年7月に導入。約1年が経過した2012年5月時点で、社員のログイン率は月単位の計測で約85%、コメントしている社員の割合は全体の33%に上った。

 Chatter上で発言する社員の割合は、毎月2~5ポイント程度増加する傾向にある。「多くの社員が活用を進めてくれていて、社長として驚きと感慨を持って受けとめている」と川崎社長は感想を述べる。VSNでは8年ほど前からイントラネット上に掲示板を設置し運用してきた。だが、書き込む社員の割合は、全社員の約3%にとどまっていた。

導入目的は社内のコミュニケーションの活性化

 VSNは電気や機械などの製造業や医薬品業界、ICT業界などに技術者を派遣している。従業員数は2012年現在、2400人弱。約2200人のエンジニアは基本的に派遣先に常駐し、顧客企業の業務に従事している。「エンジニアは全国津々浦々の派遣先に散らばっている。このため、社内のコミュニケーションをどう活性化するかが常に課題だった」(川崎社長)。

 エンジニア同士のコミュニケーションが活性化すれば、気付きが増えて知識やノウハウの交換が広がり、個々人の成長が見込める。また、ほかのエンジニアの働きぶりを知れば、共感が芽生えて仲間意識が高まることが考えられる。結果、「社員のVSNに対するロイヤリティ(帰属意識)が高まり、従業員の満足度向上、会社組織としての強さ、顧客企業に対する価値向上につながる」(川崎社長)という算段である。

 ただ、派遣エンジニアは自社から離れた場所にいるため、「意識しないと、心理的な距離感が広がりがち」(川崎社長)。これまでVSNではコミュニケーションを図る目的で3カ月に一度、エンジニアをフォローする担当社員が派遣中のエンジニアと面談する機会を作っていたが、距離的な制約があるため、回数をこれ以上増やしにくいという課題があった。

 そこで着目したのがTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアだったが、「オープンなサービスを業務のために使うわけにもいかない」(川崎社長)。業務利用に適したサービスはないかと調査を進めていた2010年暮れに、Chatterのことを知る。同社の情報システム部門が他社製品と比較検討し、仕様や機能などを総合的に評価してChatterの導入を決定。2011年7月に利用を開始した。

 ちょうどVSN社内では並行して、次期ポータルサイトを構築するためのプラットフォームや、営業のシステム化を検討していた。「セールスフォースがSFA(営業支援システム)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)も提供しており、これらとChatterを組み合わせて利用すれば、様々なメリットが生まれるだろうという期待もあった」(川崎社長)。