「経営トップにとって情報システムの仕事は分かりにくく、興味が持てないかもしれない。だが今やシステムは経営を支える重要なインフラ。経営トップは、システム部門の話に関心を持って耳を傾ける必要がある」

 2011年までソニーのCIO(最高情報責任者)を務め、2012年3月にIT(情報技術)コンサルティングを手がけるガートナー ジャパンでバイスプレジデントに着任した長谷島眞時氏はこう断言する。

 システム会社の業界団体である情報サービス産業協会会長を務める浜口友一氏(NTTデータ相談役)は、「経営トップは、自社のシステムについてもう少し勉強すべきだ。技術的に詳しくなれ、ということではない。社内にどのようなシステムがあって、どんな役割を果たしているのか。重要なシステムはどれか、ということを知っておくべきだということ」と語る。これも意味は同じだろう。

実力低下の象徴、うっかりミス

 経営とシステムに通じる利用者側とシステム提供側の専門家がこう力説せねばならないほど、日本の経営トップのITに対する関心はおしなべて低い(図1)。

経営トップはITとどう向き合うべきか
図1●経営トップはITとどう向き合うべきか

 1990年代のバブル崩壊以降、収益力が低下する中で日本企業はIT投資を絞り、システムに関する社内の組織を大切にしてこなかった。効率化の名の下に、社内の情報システム部門を子会社化し、アウトソーシング(業務の外部委託)の一環として、大手システム会社に子会社化したシステム部門を売却するケースも数多くあった。

 子会社化やアウトソーシング自体が必ずしも悪ではないが、システム部隊を減らすと何が起こるかをすべての企業が十分に検討したとは言えない。目先の経費削減を優先した結果、戦略を見失ってしまった企業もある。

 加えて、インターネットやスマートフォンの普及によって、IT活用の重要性は急速に高まってきた。取引先や消費者と、システムを通じて直接つながることも珍しくない。

 こうした環境下で、システム障害が起これば、企業の売り上げを減らし、評判も確実に下げる。にもかかわらず、システムを軽視する企業は多い。これを裏づけるのが、うっかりミスを原因とするシステム障害が頻発しているというデータだ。

 システムダウンが発生する理由について、80年代には全体の9.2%にしかすぎなかった「うっかりミス」は、90年代には16.8%、2000年代には31.6%にまで拡大している。企業情報システムの専門誌である「日経コンピュータ」が2009年に、1980年代から2000年代までに同誌が取り上げた505件のシステムダウン事例を調べた結果、明らかになった事実だ。

 システム軽視のツケは、情報システム部門、中でも最も“地味”なシステムの運用担当者に回りがちだ。システムの種類や複雑さが増しているにもかかわらず、合理化を進めたためにシステム運用の現場が疲弊し、ミスを引き起こしやすくなっていると言えるのではないか。もちろんこれはこうした状況を放置する経営に問題がある。

 企業のシステム軽視を示すデータはほかにもある。「IT部門において対応できる要員が不足している」。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が調べたところ、企業の情報システムの信頼性向上に関する悩みで、最も多いのがこの内容だった(図2)。

課題は人材不足、8割が障害対策に不安
図2●課題は人材不足、8割が障害対策に不安
出所:日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2011」
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 もちろん、何も考えずに社内の資源をシステムに投入すべきだというわけではない。ただし行き過ぎた合理化によって、人材が育たず、システム部門が弱体化していないかどうか検証してみる必要はありそうだ。冒頭の長谷島氏や浜口氏の指摘のように、経営に直結する問題ととらえ、全社としての方針を定めるべき時が来ている。