ラジオを自作するアキバ少年から、最先端のスーパーコンピュータ(スパコン)を開発するアーキテクトへ。松岡聡氏は、ゲーム機のグラフィックチップ(GPU)を大量に並べて処理性能を飛躍的に高めるGPUスパコンの先駆者だ。国際的に評価され、2011年に業界最高峰であるゴードン・ベル賞の特別賞を受けた。

スパコン用プロセッサとしてGPUにいち早く注目しました。

 当初は汎用プロセッサを使った並列型スパコンを手掛けていました。1990年代後半から2000年代前半の話です。

 ところが、演算性能を高めるためにプロセッサを増やしていくと、電力や設置スペース、コストが肥大化する一方でした。米AMDのプロセッサを採用した並列型スパコン「TSUBAME1.0」を2003年ごろに設計している段階で、「これが限界だろう」と感じていました。

 状況を打破するには、プロセッサのベクトル演算性能を補うコプロセッサが必要です。でも、スパコン専用にチップを開発するとコストがかさむ。技術を流用できるコプロセッサを探していました。

米国の研究者に笑われる

 ゲームの3次元グラフィックス処理を担うGPUで革新が起こったのはそのころです。米エヌビディアやカナダATIテクノロジーズ(2006年にAMDが買収)などが、演算の自由度が高い「プログラマブルシェーダー型」のGPUを製品化したのです。

 GPUの中身は、極小の演算コアを数百個並べた一種のメニーコア型チップで、特性はベクトル型コプロセッサと似ています。「これは使えるかもしれない」と大きな可能性を感じました。

(写真:中島 正之)

スパコンへの応用を考えている研究者は珍しかった?

 ほとんどいなかったでしょうね。2003年ごろ、「将来はスパコンでゲーム用GPUを使うようになる」と米エネルギー省の研究者に言ったら、笑われましたよ。

 でも私は「絶対にこれしか道はない」と確信していました。コスト、電力、スペースの制約条件を満たすアーキテクチャーを実現するには、それしか方法はない。ただ、スパコンに適したGPUがなかなか登場しなかった。とりあえずGPUに特性が近いコプロセッサを使って、運用ノウハウをコツコツと積み上げていきました。

 こうして2008年に完成したのが「TSUBAME1.2」。エヌビディアのGPUを載せた改良版です。GPUを載せたスパコンとして初めてスパコン性能ランキング「TOP 500」に載りました。

 ここで培ったノウハウを基に、2010年に「TSUBAME2.0」を完成させました。同年11月のTOP 500では世界4位。国内勢のトップ5入りは、2005年の地球シミュレータ以来です。省エネ性能を測る「Green 500」では、実働するスパコンのなかでは世界トップとなりました。