スイスの国際的ビジネススクールであるIMD学長で、日本への留学経験を持つドミニク・テュルパン氏が、日本企業への提言をまとめた著書である。

 「日本の驚異的な成長に学びたい」──。そんな思いを抱き1980年代に来日したテュルパン氏は、その後の日本の凋落ぶりも内と外から見てきた。IMDが毎年発表する世界競争力ランキングで、日本は1980年代半ばから1992年まで首位を保っていたが、最新の2011年調査では59カ国中26位まで順位を下げている。その過程で自信を失ったためか、多くの日本企業が中国やインド、ブラジルなど新興国への進出で立ち遅れたと指摘する。

 著者はこの凋落ぶりの原因を、過度な品質へのこだわりやモノづくり偏重による視野狭窄、地球規模での長期戦略の曖昧さなどにあると分析する。根源には異文化に対する日本人の理解力不足があり、打開するには真のグローバル人材の育成が急務だと警鐘を鳴らす。

 スイスのネスレや米GEなどのグローバル人材育成の先進事例とともに、既に中国やブラジルなど新興国の企業でも人材育成に多大な資金と労力を投じている事実を紹介している。

 著者はこれらの事例を踏まえ、日本企業が取り組むべき人材育成策を次のようにまとめている。人事異動をもっと効果的に使う、幹部教育を手厚くする、外国人も人材育成の対象にする、英語とともにコミュニケーションの型を学ぶ、海外ビジネススクールを有効に活用する、の5点である。特に「人材育成に国籍の区別はない」との考え方には強く共感した。日本人だけを集めて研修したり、特定の日本人を海外に赴任させたりするだけでは、本当の意味で多様性は芽生えない。異文化を理解する力は、様々な国や地域の多様な人材と共に学び、切磋琢磨するなかで育まれるものだ。

 あとがきでは故白洲次郎氏が60年前に遺した「日本は世界の一国だと、意識的に考えよ」という趣旨の発言を紹介している。肝に銘じたい言葉だ

評者 内山 悟志
大手外資系企業などを経て、1994年にアイ・ティ・アールを設立し、代表取締役社長に就任。ユーザー企業にIT戦略の立案などをアドバイスする。
なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか

なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか
ドミニク・テュルパン/高津 尚志著
日本経済新聞出版社発行
1890円(税込)