製品やソリューションをグローバルでビジネス展開するにあたって、ユーザーインタフェース(UI)を正しく多言語化していくことは最も重要なキーポイントの一つです。

 海外旅行に行くと、図1のような怪しい日本語表記に遭遇することがあります。これらはわかりやすい例ですが、例えば、製品やソリューションにおいてこのような不適切な翻訳による問題がグローバルビジネス展開で発生しては大問題であることは、いうまでもありません。

図1●海外で見かける怪しい日本語
図1●海外で見かける怪しい日本語
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 同様に、海外の家電製品を購入した時にいわゆる“あやしい”日本語のUIや操作説明書の記述に苦笑した経験があるでしょう。特にスマートフォンやデジカメといった最近の製品は機能だけでなく、「おしゃれ」で「かっこいい」ことが重要なので、その国で現代に適応した翻訳=言語変換が的確にできていることが重要になります。

顧客満足度の低下に直結する翻訳の品質

 筆者の会社でも最近は、大手の日本のグローバル企業から現行製品のUI、操作解説書、ヘルプなどの各国語の記述が、本当に正しく翻訳されているのかをチェックする仕事が非常に増えてきました。顧客に「かっこいい」「おしゃれ」というイメージを与えるような翻訳がされているかをチェックするように依頼されるものです。

 多くの場合、購入者からのフィードバックで「意味がよくわからない」「表記があいまい」「現代では使わない古い言葉を使用している」などの実態を知ってから、はじめてその対応策に追われるというケースが多いようです。これは、ただ単にブランドイメージの低下だけではなく、サポート・メンテナンスコストの増大、そして結果として売上の低下、収益の減少に結びつきます。

 製品が多機能で複雑になってくると、この問題はさらに顕著になってきます。例えば、デジタルカメラなどは、原文の日本語による記述があいまいだと、英語に翻訳した時点で、すでに怪しい英語になってしまいます。さらにその怪しい英語を多言語化、たとえばチェコ語やハンガリー語にした時点では、まったく意味不明になってしまう、という製品としては致命的な品質問題に発展してしまいます。

 英語だけなら、「正しくきちんとした英語になっているかどうかネイティブにチェックしてもらえばよい」と多くの企業や担当者は考えます。しかし、ほとんどの場合、これはうまくいきません。なぜなら、チェックをする英語圏の人も、仕事の一環として、いかに効率的に仕事を仕上げるかになってしまいがちだからです。結果として、なるべく原文に修正を加えない状態にして、最低限の文法チェックにとどまるというケースが多いのです。

オリジナル製品に搭載されている機能が実装されないことも

 国際対応というのは言語だけの話ではありません。製品の機能に関しても同様に気をつけなければいけない点があります。

図●名前表示の国際対応の例<br>欧米と日本では姓と名の順番が逆になるように仕様を実装しておく必要がある。
図2●名前表示の国際対応の例
欧米と日本では姓と名の順番が逆になるように仕様を実装しておく必要がある。
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 例えば、IP電話の画面上に出てくる名前は、日本では当然、姓-名(佐藤 誠/Sato Makoto)の順番となります。ところが、欧米諸国では、一般的に名-姓(Makoto Sato)となります(図2)。製品の開発段階でグローバルを視野に入れて仕様を設計していないと、こうした仕様に対応するように変更することは非常に困難です。最悪の場合は、オリジナル製品に搭載されている機能が、特定の地域では実装されないということもありえます。

 これがいわゆる製品開発における国際化(インターナショナリゼーション:Internationalization)というものです。これは、ソフトウエアに技術的な変更を加えることなく多様な言語や地域に適合できるようにするソフトウエア設計概念です。iとnの間に18文字あるため「i18n」と省略して記述することがあります。ちなみに地域化(ローカリゼーション:Localization)に関しても同様に「L10N」、グローバリゼーション(Globalization)は「G11N」と表記します。

 最近は、このようなi18nのアドバイスを求められるケースも非常に増えています。単なるプログラミング手法の問題だけではなくGlobal + Local=Glocalな製品設計がグローバルビジネス最大化のために必要になってきているのです。

相馬 正幸(そうま まさゆき)
SDLジャパン 代表取締役社長
相馬 正幸(そうま まさゆき)北海道大学工学部卒業後、日本IBM、外資系IT企業代表を経て、2008年8月より現職。SDLでは、グローバル企業のグローバルビジネス展開を加速するため、コンテンツの作成から、管理、多言語翻訳、マルチチャネルパブリッシング、顧客サービスの最適化まで、グローバル情報管理のトータルソリューションを推進。日本法人の拡大にも貢献し、入社4年で社員数を50名から150名まで成長させる。