モバイル機器向けのプロセッサ(モバイルチップ)を搭載した「スモールコアサーバー」の実用化が目前に迫っている。消費電力や設置スペースを1ケタ減らせる点が特徴だ。現在主流の「仮想化」技術は用いず、数百台のサーバーを同時に動かす。クラウドのインフラや企業システムを、根本から変える可能性を秘めている。

 設置スペースは20分の1、導入コストは3分の1、消費電力は10分の1―。米ヒューレット・パッカード(HP)が、これまでの常識を覆す次世代サーバーの開発プロジェクト「Project Moonshot」を進めている。

 製品化の第一弾となるのが、スマートフォン向けで多用されているARM系プロセッサを採用したサーバーだ。高さ18cm、幅48cmほどの4Uサイズの筐体に、288台もの物理サーバーを集積させる(図1)。2012年半ばまでに、出荷する計画だ。

図1●米ヒューレット・パッカードが開発中のスモールコアサーバー
4Uサイズの筐体に最大で288チップを搭載する
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 導入費用は1600台の物理サーバーを搭載したモデルで約120万ドル(約1億円)という予定だ。サーバー1台当たりの消費電力は通常のLEDランプより小さい6W(ワット)、周辺機器を含めても1600台分の消費電力は9.9k(キロ)Wである。同等の性能を持つPCサーバーと比較すると、導入費用は3分の1、消費電力は10分の1だ。

 HPは米インテルのネットブック向けプロセッサ「Atom」を採用したサーバーの開発も検討している。設置スペースや消費電力を1ケタ減らせるサーバーを提供することで、「データセンターに革命を起こす」と日本HPの杉原博茂執行役員は意気込む。

 HPのプロジェクトは、クラウドコンピューティングやビッグデータ時代の新しいサーバー像を示している。小さなコア(中枢回路)のモバイル機器向けのプロセッサを束ねることで、大規模なサーバーに匹敵する処理性能を持つサーバー「スモールコアサーバー」である。

ITベンダーの主戦場

 スモールコアサーバーに注目するのはHPだけではない。ベンチャー企業の米シーマイクロは、10Uサイズの筐体にプロセッサを400個近く詰め込めるスモールコアサーバーを製品化した。米デルや日立製作所はスモールコアサーバーそのものではないが、そのコンセプトに基づいた低消費電力のサーバーを提供し始めた()。

表●2011年後半以降に発売されてた主なスモールコアサーバー(開発中を含む)
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 富士通もスモールコアサーバーの性能評価を進めている。「今後数年で、AtomやARMを使ったサーバーの存在感が高まるのは間違いない」( IAサーバ事業本部の遠藤和彦本部長代理)。

 スモールコアサーバーの登場は、サーバー向けプロセッサの勢力図も大きく変えそうだ。現在は英アームのARMコアを搭載したプロセッサが、スモールコアサーバーのプロセッサの最有力候補だ。インテルのXeonの演算コアと比べ、シングルスレッド性能では劣るものの、シンプルな回路設計にすることで消費電力を抑えている。

 インテルも手をこまねいているわけではない。省電力性能を高めて高集積化しやすくしたXeonプロセッサを市場に投入して、アームに対抗する。サーバー用途に特化したAtomプロセッサの開発にも取り込んでいるとみられる。