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 実は、任天堂が優れたゲーム制作のノウハウを構築できたのは、日本文化と深い関係がある。このノウハウは、日本の「もてなしの文化」と「制限による工夫の文化」に由来する。日本には、茶の湯に代表される気遣いや心配りの文化がある。一方、俳句のような、ある制約下で想像を膨らませる文化もある。

 例えばゲームでは、「ユーザーはきっとこういう操作をするに違いない」と考え、操作ボタンを分かりやすくレイアウトする。「ユーザーは途中で目標を見失ってしまうかもしれない」と思い、ユーザーに気付かれないように、それとなく次の目標を提示することもある。

 つまりゲームニクスは、常にユーザーの先回りをしながら、さりげなくサポートする方法論とも言える。これこそが、「さりげないもてなし」という、昔から日本人の心の奥底に流れている和の心そのものである。

限られたデバイスで操作


 ゲームでは、限られた入力デバイスで多様な操作を実現する。中でもファミコンは、AボタンとBボタン、十字キーの3種類だけでゲームを操作する。

 多様な操作を少ない入力デバイスだけで実現する手法は、字数制限で想像力を膨らませる「俳句」に通ずる。茶室も質素から豊かさを求め、浮世絵は表現と色数の制限から生まれた様式である。能も、人の感情を単純化しながら、面一つで多様な感情を表現する。こうした制限による工夫は、日本における表現手法の伝統である。

 特に京都は、古くからもてなしの伝統を持ち、同じ京都で誕生した任天堂は、それを色濃く引き継いでいる。その伝統が、ゲーム制作に自然に反映されたと言っても過言ではない。

 もてなしの文化と制限による工夫の文化は、日本人の根底に流れるものだ。それ故、日本人であればゲームニクスを取り込みやすい。

さまざまな電子機器に生かせる


 ゲームニクスは、家電のみならず、Webサービスや教育、ヘルスケアなどゲーム以外の分野にも適用できる。インタラクティブ性(双方向性)を要求するものであれば、どのようなものでもゲーム制作のノウハウを生かせる。実際多くの電子機器が、双方向性を求めている。

 最近では、ゲーム制作のノウハウを生かした電子機器やWebサービスなどが増えている。例えば、筆者はクラリオンと共同でカーナビの開発に取り組んだ。2010年6月に発売された「NX710/110」である。操作性を向上させることに加え、CO2排出量を抑える「エコ運転」を促す機能に関心を持ってもらうために、ゲーム由来の「分かりやすさ」と「楽しさ」を盛り込んだ。

 また、筆者はベネッセコーポレーションと共に、子供のDS用学習ソフトウエア「得点力学習DS」シリーズを開発した。ゲームの思わず夢中になる仕組みを取り入れ、学習効果を高めるのが狙いだ。加えて、学習部分の充実だけでなく、毎日ソフトを起動したくなることで学習習慣が身に付くような仕組みも盛り込んでいる。