米Google、米Facebook、米Amazon.com、米Apple・・・。インターネットの上位レイヤーに君臨するこうしたプレイヤーをOTT(Over The Top)と呼ぶ。またローカルな市場に目を移せば、日本における「LINE(ライン)」、韓国における「KakaoTalk(カカオトーク)」もOTTの一つに数えられるだろう。Mobile Asia Expoでは、通信事業者がOTTへの対抗をあらわにするシーンも見られた。

 そうした事業者の1社が韓国最大手の通信事業者SK Telecomである。同社のCTOであるChoi Jin Sung氏は、Mobile Asia ExpoのCTOラウンドテーブルのセッションの席上、「OTTプレイヤーは破壊的である。SK TelecomはOTTプレイヤーと競争していく」と力強く宣言した(写真1写真2)。

写真1●韓国SK TelecomのCTO、Choi Jin Sung氏
写真1●韓国SK TelecomのCTO、Choi Jin Sung氏
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写真2●CTOラウンドテーブルセッションの様子
写真2●CTOラウンドテーブルセッションの様子
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 Choi氏は同セッションの冒頭、モデレータの「通信事業者の課題は何か?」との問いに対し、「OTTプレイヤーである」と即答。さらに「SK Telecomはメッセージングアプリにより、SMS収入が減少した一方、ネットワーク投資は増大した」と続けた。

 また、「データ爆発(データ量の増大)も課題である。SK TelecomのLTEユーザー数は既に300万に達しており、2012年末までには700万に達する見込み。これと併せてWi-Fiオフローディングを実施しているが、データ爆発は解決しきれていない」としている。

 名指しこそ避けたものの、Choi氏の言う「OTTプレイヤー」および「メッセージングアプリ」は主にKakaoTalkを念頭に置いているのは明らかだ。韓国の人口は約5000万人だが、KakaoTalkのユーザー数は既に韓国内だけで3000万人を超えている。また、Kakao Talkはもともとメッセージング機能を提供していたが、現在はVoIP機能も備えている。

 こうしたKakaoTalkに対し、市場第2位、第3位の通信事業者であるKTとLG U+も大きな脅威を感じているものの、最も敏感に反応しているのはSK Telecomだ。

トラフィックを軽減するSmart Push

 Choi氏は「OTTプレイヤーへの対策として、Smart Pushを導入する。これを導入すれば、通信事業者、OTTプレイヤー、ユーザーといった全てのステークホルダーにとってベネフィットがある」と述べている。

写真3●Smart Pushの説明
写真3●Smart Pushの説明
写真はMobile World Congress 2012で撮影
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 Smart Pushとは、KakaoTalkをはじめとしたOTTアプリからの制御信号をコントロールするSK Telecomの独自技術である。2012年2月下旬にバルセロナで開催されたMobile World Congress 2012でも、SK Telecomの展示ブースで紹介されていた(写真3)。

 SK Telecomの担当者によると、「メッセージング系のOTTアプリによるトラフィックは全体の5%程度に過ぎないが、call attempt(回線呼び出し、呼数)ベースでは全体の40%を占める」という。Smart Pushはこのcall attemptを制御することにより、ネットワークにかかる負荷を軽減する。

 例えばKakaoTalkの場合、20分毎にcall attemptが発生するが、Smart Pushを導入することで、ネットワークの状況に応じてcall attemptを60分毎にするなど頻度を調節することができる。SK Telecomでは、Smart Pushを導入した結果、call attempt(アプリだけでなく、SMSやWebアクセスも含めたもの)は導入前よりも12%減少、keep alive信号に至っては70%も減少させることができたという。

 SK TelecomはSmart Pushの効果に手応えを感じており、Choi氏は「韓国Samsung ElectronicsとフィンランドNokia Siemens NetworksとMoU(覚書)を結び、Smart Push対応のネットワーク機器を海外に輸出していく」と述べている。