今回のブログはほぼ3年前に投稿されたものですが、アントレプレナーを明確に定義しています。ブランク氏いわく、それは「不確定なことを積極的に受け入れ、経験をつなぎ合わせられる人」。ここで紹介されている同氏の経験そのものが、アントレプレナーの体現であると言えます。(ITpro)
アントレプレナーは、逆境を良い機会だと受け止める傾向があります。
あなたは採用されました、そして解雇されました
私の最初のシリコンバレーでの仕事は、ESLという企業のトレーニング部をサポートする、ラボ・テクニシャン(技術士)でした。私は、それまで住んでいたミシガン州での生活を整理し、カルフォルニア州で仕事を始めるために、5日間かけて車を運転して行きました。余談ですが、米国横断の運転旅行は、皆さんが一度はやるべきアドベンチャーです。この運転を体験すれば、シリコンバレーのテクノロジー中心の文化的なバブルは、過半数の米国とは全く関係がないことが理解できます。
私は、ESLからの採用通知書を持って、人事部に出向きました。そこで私は、非常に申し訳なさそうな態度のマネジャーに会いました。彼は「私たちは先週いっぱい、あなたにコンタクトを取ろうとしていたんです。あなたを採用したトレーニング部のマネージャーは、あなたを採用する権限を持っていませんでした。そして、彼は先週クビになりました。本当に申し訳ありませんが、ここにあなたの仕事はありません」と言うのです。
私はぼう然となりました。私は仕事を辞め、アパートを解約し、すべての持ち物を車の後ろに積み込んでシリコンバレーに来たのです。シリコンバレーに知人は一人もなく、所持金は200ドルでした。今日は最悪の日かもしれない。私は一呼吸して気持ちを落ち着かせ、そのほんの少しだけ考え、「新しいトレーニング・マネージャーとお話させていただけませんか。もし彼が私を採用すれば、私はここで働けますか?」。人事部の担当者は私に同情し、電話を数件かけた後、「もちろん。ただし彼は、ラボ・テクニシャンではなく、トレーニング・インストラクターを探しています」と言いました。
あなたは再び採用されました
3時間が経ち、さらに2~3のミーティングをした後に、トレーニング部は最悪の状況だと分かりました。以前のマネージャーが解雇された理由は以下の通りでした。
1.ESLは、韓国に「機密情報収集システム」を収めるための主要な契約を保持していました
2.同社は、陸軍情報保障局の人たちに、このシステムのメンテナンスについてトレーニングする必要がありました
3.10週間(1日6時間)のトレーニング・コースは、書類化されていませんでした。
4.コースは、6週間後に開始予定でした。
私は、トレーニング部のマネージャーおよび彼の上司と話をしながら、時間は刻々と進んでいると指摘しまいた。私は、軍のメンテナンス関連の人たちが必要とするトレーニング方法を知っていたので、「過去に空軍で非公式なトレーニングをしたことがある」と伝えました。彼らに対してかなり好条件の提案を提示しました。すなわち私をラボ・テクニシャンの給料で、トレーニング・インストラクターとして採用してくれるように伝えたのです。彼らは、絶望的な状況と目の前に実在する人間を見て、誰もいないよりはましだろうと考えました。その結果、ESLにトレーニング・インストラクターとして、2度目の採用が決まったのです。
ここで良かった話は、私は仕事を始める前に、シリコンバレーで最初の昇進をしたことです。
一方で悪い話もありました。6週間以内に、方位測定エレクトロニクス機器を搭載した30フィート(約9m)のトラック3台、および受信器を満載した小型飛行機1機をメンテナンスするための10週間のトレーニング・コース向け教材を書く必要があったのです。「それと、その準備中にオペレーター用解説書も書いてほしいのだけど」とも言われました。このシステムには関連書類がほとんどなかったので、システムを設計しテストしたデザイン・エンジニアと、システムを海外に送り出すための展開チームと、私はほとんどの時間を過ごしました。システムの見取り図を丹念に調査し、システムの理論、オペレーション、メンテナンスを教えるコースを考案しました。
あなたは、独身?
毎日クラスでの講習を終えた後、私はオペレショーン・マニュアル(システム取扱解説書)を書き、テスト・エンジニアと一緒に仕事をしました。私にとっては、夢のような生活でした。週80時間働き、あらゆる技術を吸収しました。
以下は、クラスが終了する2週間前のシステム展開チームのボスとのやりとりです。
「スティーブ、あなたは独身?」
「はい」
「あなたは、旅行は好き?」
「もちろん」
「私たちがシステムを韓国に展開する時に、あなたも一緒に来てはどう?」
「私はトレーニング部に属しているのだけど」
「ああ、それは心配ない。私のグループに臨時に出向し、帰ってくる時にはテスト・エンジニア兼トレーニング・インストラクターとして、もっと面白いシステムの仕事ができるようにしてあげよう」
「このシステムよりもっと面白いシステム?ぜひ、私も参加させて下さい」
あなたはそれほど賢くありません。頻繁に姿を現わすだけです
これらのことが起こっている間に、私のルームメイト(彼はミシガン大学時代からの知り合いで、コンピュータ・サイエンス学科の修士)は、私がどうして次々と面白い仕事を手に入れるのか、理解できない様子でした。私に話してくれた彼の理論は、「君はそれほど賢くないが、多くの場所に頻繁に姿を現わしているだけだ」というものでした。私はこの言葉を「勲章」として、後生大事にしています。
しかし、時間が経つと共に、彼のコメントはアントレプレナーの「気の持ち方」を的確に洞察していると気づきました。そこに、このブログの目的があります。
おめでとう。今あなたは、自分の人生を決められる
子供時代、家庭では両親が何が大切で優先順位をどのようにつけるかを教えてくれました。大学では、卒業するためには必須科目と、一定の成績をとらなければなりませんでした。私の場合には、軍隊が、何が成功で何が失敗かの枠組みを決めていました。ほとんどの場合、20歳代の前半までは、あなたが次に何をやるべきことは他人が決めていました。
あなたが独立して生活を始めたとき、「おめでとう、今あなたは自分の人生を決められます」というメモをもらうことはありません。その代わり、あなたは突然、自分自身が次に何をするかを決める責任を持つのです。あなたは、不確定なことへの対処に直面します。
ほとんどの普通の人たち(ここでは、アントレプレナーではない人たち)は、不確定要素とリスクを最小限に抑えるために、弁護士や教師、消防士のように、キャリアパスが決まった職業に就くことを望みます。このキャリアパスは、あなたが家庭や学校で与えられていたように、このようなことをすれば、このような結果が得られますということの連続です。
ただし、そのキャリアパスを進んだとしても、いずれ自分の進路は自分で決めなくてはならなくなります。誰一人として、あなたの仕事は先が無い、とは言いません。誰も、あなたに別の仕事に変わる時期です、とも言いません。誰も、あなたにもっと合う他の仕事があります、とも言いません。誰も、早く仕事を切り上げて、家に帰ってパートナー(配偶者)や家族との時間を過ごしなさい、とは言わないのです。そして多くの人たちは、キャリアの終わり近くになって追いつめられ、「もっとできたのに」とか「ああすべきだった」ということになります。
キャリアパスは、直線コースではありません
アントレプレナーは、彼らのキャリアを守るのは自分自身であって、直線的なキャリアパスはないと本能的に感じています。彼らは、自分の内部にある指針に従い、不確定要素は自分の進む道の一部であると受け入れます。
実際、不確定要素を自分の進む道として選ぶことが、アントレプレナーが共通に持っている長所です。彼らが進む道は、 キャリアパスを進む人たちよりも、 もっと寸断された道でしょう。そしてある日、彼らがそれまでに得た、行き当たりばったりに見えるデータや経験が、それらすべてを加えたものよりもさらに大きなものを創造するための、洞察力になるのです。
スティーブ・ジョブス氏が、2005年にスタンフォード大学の卒業式の基調講演で言った「貪欲であれ、馬鹿げたことをし続けろ」という言葉は、アントレプレナーの進む道を、今でも最も適切に表現しています。
―いろいろな場所に頻繁に姿を現すことは、あなたの勝機を増やします
―あなたのキャリアの個々の出来事は、いずれ繋がると信じなさい
―名刺の肩書きよりも、何かをすることに情熱を持ちましょう
(2009年6月29日オリジナル版投稿、翻訳:山本雄洋、木村寛子)
著書に、スタートアップ企業を構築するための「The Four Steps to the Epiphany」(邦題「アントレプレナーの教科書新規事業を成功させる4つのステップ」、2009年5月、翔泳社発行)がある。